悠の詩〈第3章〉

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「おいおい~情けないなぁ、あんなちょっとのダッシュでそれって(笑)」

 俺ん家から走ってきた事なんて知らないコタ先生が肩を揺らして言う。食って掛かる気にもなれない。

「はあっ…先生、今日どこまで行くの」

 再度息を整えながらコタ先生に聞くと、5コ先の○△○町駅だって。小さい頃、とうちゃんに2、3度ほど連れられた映画館がある所だ。樹深は未開拓らしい、「楽しみ~」と鼻歌混じり。

 各停列車だから乗客はまばら、流れる景色もゆっくり。「地区体育館見える」「△△中学、こないだ練習試合で行った」知った場所を目で捉えてはそんな事を話している内に、目的の○△○町駅に着いた。

「さぁこっちだ、ちょっと歩くからな」

 改札を抜けた途端、コタ先生が足早になった。その背中を見失わないように、俺と樹深は必死についていく。

 この町も、もう少し先にある市内一の繁華街ほどではないが、休日はそれなりに人の出入りが激しい所。しかも沢山小路が入り組んで、油断すると迷子になっちまう。

 商店街の一角に足を踏み入れて、あ、この風景知ってる。しばらく歩いていくと、あぁやっぱり、昔行った映画館の前を通った。けど、映画館ではなくなっていて、レンタルビデオ屋になっていた。

「柳内、ここ映画館だったの知ってるのか? そうかぁ、先生も昔よく来てたよ、懐かしいな」

 含み笑いをしながら更に進む先生、途中で細い裏道に入っていった。

 賑やかな商店街からガラリと変わる景色にちょっと不安が隠せない、大丈夫? 恐いおにいさんとか出てこねぇだろうな?

 樹深を見ると、めっちゃキョロキョロしてる。いつもの好奇心かと思いきや、顔が強張ってたから俺と同じ気持ちだったようだ(苦笑)

 そんな俺達を可笑しそうに見て「そんな緊張するなよ(笑)」と言いながら、コタ先生はとある古びた建物の扉に手を掛けた。

 どうやら目的地に着いたらしい。上を見上げると看板があって、【軽食/照井スタジオ】と書かれていた。

「おーい照井、来たぞぉ」

 開けた扉の向こう側へコタ先生が呼びかけると、

「おー。上開けてあるから、好きにやってくれ。仕込み終わったら顔出す」

 声だけそう返ってきた。声の主はここからでは見えなかった。





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