悠の詩〈第3章〉

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 そして次の日。

 部活が長引いて家に帰るのが遅くなってしまった俺。かあちゃんがお昼を用意してくれてたけど、どんなに急いで食べても待ち合わせ時間に間に合わなくなってしまう。

「かあちゃんごめん、これから出掛けるから、そのごはん、晩飯に回しといて!」

 自分の部屋へ駆け上がり、練習着から私服へ、前もって準備した荷物を掴んで、脱いだ練習着をくしゃくしゃに丸めながら階段を下りて、洗濯カゴへポイ。この一連をそう大声で言いながらこなした。

「はあ!? 何をいきなり、どこへ、誰と!?」

 玄関のドアノブに手を伸ばした所で、分かってはいたがかあちゃんの雷が落ちた。

 ほんとにやべぇ、あと10分しかねぇ、全力ダッシュじゃないと間に合わねぇ。

「まじでごめん、えーと樹深と約束を…」

 恐ろしい形相でこちらに歩いて来るもんだから、ついビビって出来うる限り申し訳なさげな顔をかあちゃんに向けながら、後ろ手にノブを回した。ら、

「おわっとっと…!?」

 ドアが勝手に外へ開いて、半ブリッジみたく背中が反ってびっくりした。

 俺の視線の先には目を丸くした樹深。あれ、なんで樹深がここにいるんだろ、ふたりで駅に行く話ではなかったはずだけど。

 樹深は俺とかあちゃんを神業かってくらいの早さで交互に見て、「あー春海ちゃんごめん」と前おきしてからこんな事を言った。

「こんにちはー。春海ちゃんと図書館で勉強する約束してて。春海ちゃんもう行ける?」

 これを聞いたかあちゃんは「えっ春海が勉強!?」と若干絶句をして(苦笑)、でも他ならない樹深の言葉、信じないわけがないのだ。

「そうなの、たっくんが一緒なら安心だわー。どうぞどうぞ連れてって。
 あっ春海、昼抜きで勉強出来るとは思えないわ、これ渡すから向こうでたっくんと何か食べなさい。余ったら返しなさいね」

 樹深の登場ですっかり怒りが鎮火したかあちゃん、5千円札1枚を財布から抜いて俺に渡すと、「気をつけていってらっしゃい」駅方面へ駆けていく俺と樹深を快く見送った。





「来てくれて助かったけど…はぁはぁ…何で?? 約束してなかったのに…はぁっ」

 駅舎が視界に入った所で、もう歩いても間に合うだろ、息を整えながら樹深に聞いた。

「ぜぇぜぇ…俺も…ちょっと怪しまれてて(苦笑)
 イッサの散歩断っちゃったからさ…はぁはぁ…春海ちゃんと図書館で勉強してくる約束だからって言って出てきちゃった。
 まるっきりウソでは…無いよね?(笑)」

 ぺろっと舌を出す辺り余裕あんなコイツ、と思う(笑)

 改札へ繋がる階段を下りると、改札の前でコタ先生が待っていて、

「おっ来た来た。おぅい、電車ちょうど来るから急げ!」

 3枚の切符をヒラヒラさせて、息が整ったばかりの俺達を走らせた。

 赤い電車に滑り込みで乗れた時にはさすがに、俺も樹深もぐったりだった(苦笑)





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