今に通しで演れるようになってやる！　といういっちょ前な意気込みも空しく、時間はあっという間に過ぎていく。もう最終下校時間になった。

　柏木が2週間もないと言ったのは決して冗談ではないという事を、今になって飲み込んで青ざめた。

　昼休みの30分と放課後クラスの準備を手伝った後の1時間ちょっと、実質これ(学校で出来る練習)があと8日ほどしかないんじゃん…洒落にならねぇ。

　家でも沢山練習しなきゃ、気が急いて準備室を出ようとするのを、コタ先生が止めた。

「待て待て柳内、これ持ってけ。後藤も。
　いっぱい聴いて、いっぱい練習して、もっともっと上手くなれ」

　先生が俺と樹深に渡したのはカセットテープだった。柏木のパート、樹深のパート、俺のパート、ひとつずつ先生が演奏して録ったんだって。

「先生、私には？」

　と柏木が言ったのは意外。コタ先生もそう思ったようで、

「うん？　柏木も必要だったか？　欲しいと言うとは思わなかったな(笑)　明日にでもまた録ってくるな」

　と心なしかニヤニヤしながら言った。

「欲しいなんて言ってないし。
　録らなくていいよ先生、ふたりが早いとこ上達してくれればそれでいい。
　じゃ、お先に」

　ぶっきらぼうに言い放って柏木はさっさと帰っていった。俺が一番乗りに学校を出るつもりだったのに、先を越された。



　家に帰って早速、ラジカセでテープを流した。かあちゃんに聞かれないよう、ヘッドホンをして。

　やけに聴きやすい。先生が上手いのもあるだろうけど、手録りでありがちな雑音が一切入ってなかった。

　どこで録ったんだろう？　と頭に掠めたけど、とにもかくにも練習しなきゃ、先生の音を聴きながらパッドを打ち鳴らした。

「春海ー！？　聞こえてるの！？　ごはんだよって言ってるのに！！」

　かあちゃんの声がすぐそこで聞こえて心底焦った。

「はぁい！　今行こうとしてた！」

　咄嗟に言ったおかげで、かあちゃんが部屋に入ってくる事はなく、そのまま階段を降りていく音を聞いた。

　あぶねぇ、ヘッドホンでも音量小さくしとかないと、かあちゃんの動きが分からなくなるから気を付けなくちゃ。



　ところで、やたら綺麗な録音だったワケを知ったのはわりとすぐの事だった。

　週末前の練習を終えて帰ろうとする俺達に、コタ先生がこんな提案をしてきた。

「お前達、土日の午後、家から出られるか？
　思いきり練習出来る所へ連れてってやりたいんだけど」
















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