悠の詩〈第1章〉

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 数日経って、ぼちぼち授業の方にも熱が入り出した頃、新入生の部活の仮入部期間が始まった。

 一週間、放課後、自由に見学なり体験なりが出来る。そして本入部申請の紙を提出して、部活動本格開始。

 俺達の学校は必ず何かしらの部活に入るルール、というのも、入ってる入ってないで後々内申に響くらしい。

「春海ちゃん、部活はやっぱり野球部?」

 登校の途中で樹深にばったり会って、そのまま一緒に歩いている所で、樹深にそう聞かれた俺。

 樹深のヤツ、学校の中では柳内くん、一歩外に出れば春海ちゃん、なかなか上手く使い分けていた。

「当たり前だろー。今更やめられるかっての。樹深は? やっぱり水泳か?」

 樹深は幼稚園の時からずっと水泳教室に通っていた。

 実は俺も、樹深くんがやるならとかあちゃんに無理矢理一緒にさせられて、年長の一年間は頑張ったんだけど。

 水泳は俺には合わなかった。ひとりで黙々とやるより、仲間と力を合わせてワイワイ出来る方がいい。だから俺、野球が好き。

「…うーん」

「? なんだ? 違うのか?」

 樹深が言い淀んだので、また聞き返す。

「まだはっきりとは分かってないんだけど…もしかすると、水泳部無くなってるかもしれない」

「へ、なんで」

「姉ちゃんが卒業する前から、水泳部と学校側が揉めてたらしくて…廃部に追いやられるかもなんて話が出てたみたい。
 なんでそんな事になっちゃったか知らないけどさ…
 …はーあ。無くなってたらどーしよかな。母さんはもう水泳教室に通わす気は無いし。
 俺も…出来れば部活で帰り遅い毎日にしたいよ」

「じゃあ野球部どーだ!? 楽しいぞ(笑)」

 能天気な俺は、樹深の言葉の本当の意味を噛み砕こうともしないで、そんな事を言った。

「えー(笑) まあ、はる…柳内くんとなら楽しいだろうけど。ちょっと考えさせて」

 学校の敷地内に入ったので、言い直しながら樹深は答えた。

 …意味を知るのは、もう少し先の話。





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