悠の詩〈第2章〉
79/80ページ
「由野に言ったのかって? あぁ、話したけど」
練習を始める前にコタ先生に聞くと、先生はあっさりと認めて、何故か肩を揺らして笑う。
「ちょっとまぁ、ややこしくなりそうだったんだけどな(笑)
高浪が由野に話しかけに行くのをたまたま見てて…珍しいなぁって思ってな。
ほらアイツ、積極的に女子に絡んでいくタイプじゃないじゃんか?」
あぁそうかも、と相槌を打つ樹深の横で柏木が苦笑してる。思い立ったら一直線の高浪を知っているからな、というわけで同じく俺も苦笑い。
「そしたらさアイツ、お前達3人がちょいちょい出てくのを咎めないでやって、なんて言ってさ。
それを由野がさ、ポッカーンとして聞いてるわけよ。いきなり言われてワケ分かんないわな。
ナニソレ、どういうこと? って高浪に詰め寄りそうになってたから、慌てて間に割って入ったんだよ。
最終日の生徒会の出し物にお前達が手伝ってるって簡単に説明して…当日までのお楽しみにするのが伝統だから詳しくは聞くなって言っといた(笑)
一応は納得したと思うけど…大丈夫だったろ?」
さっき見送ってくれた感じだと…大丈夫そう。何をやるのかとか問い詰めなかったもん。
「うん、おかげで抜けやすかったよ。な」
樹深と柏木に視線を送りながら、俺はコタ先生に答えた。
「そうかそうか。じゃあまぁこれで、練習に集中出来るよな? さぁて、放課後もギリギリまでがんばろう」
コタ先生にぐしゃぐしゃに頭を撫でられた俺達は、髪の毛を整えながら(もっとも俺は短髪だから手直しナシで済むけど、樹深と柏木は若干迷惑そうだった(笑))、それぞれの練習に精を出した。
最終下校まで1時間ちょっとぐらいしかなかったが、先生と柏木が何度も見本を聴かせてくれたおかげで、俺はドラムのリズムを最後まで覚える事が出来たし、樹深は樹深で曲に出てくる全てのコードを習えた。
「意外と…上達早いな、柳内と後藤? 素質あるかもよ。ちょっとだけ、三人で合わせてみるか?」
先生の言葉に、ほらみろ! と顔を輝かせて柏木を見た。
柏木ははっと短く息を吐いて、反対するかと思ったが「いいけど」と言った。
「ほれ柳内、ドラムがリードするんだからな? スティックを4回鳴らして開始しろ」
音楽番組のドラマーみたいに? 妙に高揚して言われた通りにした。
出だしから俺が突っ走りふたりの音が追い付かなくて、途中から俺が分からなくなって急に止まったり、「えぇと、Fコードは…」とコード表を捲りながら樹深が苦戦したり、結果は滅茶苦茶で最後まで辿り着けなかった。
この酷い演奏に「ですよねー」と伏せ目で抑揚なく言った柏木。
でも、演奏中文句を言ったりせず、ひとりで最後まで弾いたりもしなかったのは、こいつなりの優しさだったのかもしれない。
…