悠の詩〈第2章〉

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 走ったおかげで18:30前に帰宅出来た俺だったけど、かあちゃんの雷は落っこちた。

「門限は18:00でしょうがー! こんな時間まで何をやっていたの!?」

 首を竦めながら先生の話が長引いたと言ったら、あらそうなの? と怒りが引いた。のはほんの一瞬で、そこから、すっかり冷めてしまった夕飯を前にクドクドネチネチとお説教が始まった。

 その間にとうちゃんが帰宅して、まぁまぁ春海も反省してるから、と切り上げてくれて、それでも時間はもう19時に近かった(苦笑)

「ごちそうさま!」

 鳴り止まなかった腹を大急ぎで満たして、俺はダッシュで部屋に籠った。

 コタ先生に借りたドラムパッドを床に広げて、いやまてよ、下に響いたらまたかあちゃんがやいのやいの言ってきそう、考え直してベッドの上に置いた。

 貰った楽譜を見ながら、翼を下さいの鼻歌をしながら、タン、タタタン、スティックでぎこちなく叩く。

 これでいいのかなぁ、実際にリズムを聴いてみないと分かんねぇ、明日コタ先生に聞いてみよ。

「春海? 入るよ?」

 突然ドアの向こうからとうちゃんの声が聞こえて、あれっノックした?? パッド叩いてて全然気が付かなかった。

 一式を片付けようと動く間もなく、とうちゃんは部屋に入ってきた。

「勉強して…たワケではなさそうだな?」

 ベッドの上で固まったままの俺を、とうちゃんはクスリと笑った。

「あのー、えっとー…」

「へぇ? 春海、ドラムやるの?」

「あー、ウン、ちょっと、なりゆきでさぁ。
 クラスのヤツと3人で、バンドやる事になっちゃって。あ、ひとりは樹深ね」

「ふーん? タツくんも?」

 ベッドの縁に座るとうちゃんにやんわりと説明する。詳しくは…ちょっと難しいし、かあちゃんに漏れるのが怖ぇ(苦笑)

「いいねー春海。青春だねー」

「え? そ、そう?」

「がんばれ。野球と同じぐらいに。とうさん、応援してる」

 あんまり穏やかに微笑まれて照れてしまうが、俺のとうちゃんいつもこんな感じ。かあちゃんみたくうるさく言わないでどんと構えてくれるから、とうちゃんにはほろっと話せてしまう。

「春海? かあさんにはヒミツにしてほしい感じ?」

 部屋を出る時に、とうちゃんが肩越しに振り返ってそう言った。

「あー…ウン。そうしてくれると、助かるけど」

「はっはっ。柳内家男たちのヒミツな。
 かあさんには春海が勉強してるって言っとく(笑)」

 コタ先生の小汚ないウィンクと正反対の、爽やかでスマートなウィンクをして、とうちゃんは下へ降りていった。





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