悠の詩〈第2章〉
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「うわっもうこんな時間…もういいですね!? こんな遅くは本当もうこれっきりにして下さいよ!? さようならっ!」
柏木のその言葉の最後の方は、ガチャンと扉が閉まった音と重なって、あんまりはっきりと聞こえなかった。
柏木の足音がタッタッタッと廊下を響かせて、やがて消えた。
「18時回ったか。ま、確かに長居し過ぎたな(笑)」
壁掛けの時計を見ながらコタ先生がハッハと笑って、ゆっくり立ち上がった。
「さぁお前達も帰れ。遅くまで拘束して悪かった」
「全くだよ。先生こそ、他の先生達に怒られるんじゃないの」
「どっこい、今日は俺が戸締まり当番なんだな。もう皆帰ってるよ」
鍵の束をジャラリと鳴らして、先生は俺と樹深を見送る為に昇降口までついてきた。
「また明日な、弁当の時間終わったら3人であそこに来いよ。
放課後あまり時間取れないなら、昼にみっちりやるしかないよな?
楽譜だけでいいぞ、ギターもドラムも準備室に置いてあるからな。
後藤は家にあるギターで、柳内はさっき渡したパッド、本番終わるまで貸しとくから、家でも沢山練習してくれ」
わかったよ、先生さよーなら、挨拶をして俺と樹深が門へ抜けるまでの間に、コタ先生は昇降口の鍵を全て締めて、校舎の奥へと姿を消した。
「あーあ、家着くの18:30過ぎちまうなぁ」
門を出てすぐの所で、外灯が煌々と照らすのを見ながらつぶやくと、
「ごめん春海ちゃん、俺先に行っていいかな」
樹深がそう言いながら走ろうとするので、「え、おい」面食らってつい呼び止めた。
なのに、樹深は早口でこう言う。
「ほんとごめん、早く家のギター探したいから。また明日!」
言い終わらない内に本当に行ってしまった。
外灯にジジジと群がる羽虫の音と反比例してしんとした空気の中、樹深の背中を呆然と見送ったけど、俺も樹深と同じように家に向かって暗い道を走り出した。
──楽器に触れたい、気持ちが逸った。
…