悠の詩〈第2章〉
71/80ページ
わざとらしく語尾を細かく刻んで言うコタ先生に、柏木は心底呆れたようで、額を押さえてうなだれた。「うそでしょ…」とさえ漏らしている。
俺と樹深はというと、ここまでの流れを、こうなった経緯を、ぽっかーんとしたカオで見ていた。
オレタチサンニンデ、バンド? ナニイッチャッテンノ??
「そもそも時間が全くない、2週間足らずで一体どうしろと?」
「いやー何とかなるだろ、翼を下さいは元々初心者向けだし。
明日から文化祭迎えるまで、昼休みと放課後の空き時間にみっちり教え込んでやるからさ…
後藤は家にギターあるって、コードさえマスターして貰えりゃ、柏木のメインの旋律に合わせられるだろ。
柳内には、ほらこれ、先生が昔使ってた電子ドラムの練習用パッド貸してやるから。家でいっぱい練習してくれ」
さっきこれを取りに行ってたんだと言って、コタ先生はそのパッド一式を俺に渡してきた。
手書きの楽譜も一緒に、これは樹深にも配られた。
ちょい待てちょい待て。そんなにこやかに話を進められても。
たしかにちょっとは面白そうとは思うけど…本気かコタ先生?
「勘弁して下さい、こんなのおかしい、やるなんて一言も言ってない」
苦々しく柏木が最後の抵抗をする、珍しく俺と意見が一致したけれど…
こいつの、このひとことで、何もかもが決定してしまったのだった。
「先生、俺、やってみたい」
…