悠の詩〈第1章〉
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ふと、一昨日海の向こうを物憂げに見ていた柏木を思い出した。
なあ、お前、なんであんな所で、あんなきったねー海をずっと見てたの。
聞こうと思ったところを、丸山が振り返って「はい柳内くん、どんどんくるよ」と教科書を渡してきた。
あっという間に俺の机は教科書の山。うへ、当然だけど小学校のより教科数多いし分厚い。
これで俺と柏木の話は中断されて、教科書を全て受け取って今日は終了だった。
起立、礼、さようなら。
「柏木さん、よかったら一緒に帰らない?」
由野が柏木を誘ったけど、
「由野さんごめん、すぐに帰らないと…越してきたばかりだから、家の事が全然片付いてなくて」
表情の変化が乏しい柏木が、めいっぱい申し訳なさそうに顔を歪めた。
「そっか…じゃあ、また今度」
「うん。今度。必ず。また明日」
そう言って足早に教室のドアへ向かう柏木の背中を、由野は寂しそうに見送った。
由野が柏木と仲良くしたそうなのは一目瞭然、発破をかけるつもりでちょっとおちゃらけた。
「由野、積極的だなー。ちょっと気難しそうな感じだぞ? 思いが通じるといいなー」
すると由野はふっと笑って、
「柳内くんが私に気を遣ってる~。柳内くんいいヤツ~」
「あたっ」
俺の背中をばしっと叩いた。由野、意外に馬鹿力(笑)
──そんな感じで、1年4組が36人のスタートを切った所から、物語はゆっくり進んでいく。
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