悠の詩〈第2章〉

62/80ページ

前へ 次へ


 俺と樹深がパイプ椅子に座ったのを見届けると、コタ先生はギターをもうひとつ出してきて、

「さぁ柏木、もういっちょ通しいっとくか」

 ジャランと弦を奏でた。

 え、先生もギターを? と思うより先に、先生と柏木は素早く互いに目配せをして演奏を始めた。

 柏木のポロポロ演奏に対し、コタ先生は一定間隔のひと掻き鳴らし演奏。見事に噛み合っていて、隣で樹深が機嫌良さげにさっきよりも大きい鼻歌をしていた。

「おっ後藤、よく分かったな? そう、翼を下さいだ。
 あ? あぁ、だから柳内の、翼に合ってて云々なのか?
 ふははっ、やっぱりワケわからん(笑)」

 自分の推測が当たって満足そうに、ほらね、と樹深は俺に笑みをよこしたけど、俺はまたコタ先生に笑われたのでブスッとした。

 そんな俺達のやりとりなんてお構いなしに、柏木は目線を下げたまま演奏を続ける、いや、今微かに舌打ちをした気がする(苦笑)

 サビに差しかかった時に穏やかだった音色が急に盛り上がって、否応なしに引き込まれた俺。あ、樹深も? びっくりしたのか鼻歌やめちゃってら。

 柏木もコタ先生も力強く弾いて、あの奏でる指先にどれだけの気持ちが入っているのだろう?

 弾かれる弦を真っ直ぐに見つめるふたりの横顔、眼差しにも圧倒された。くそ、カッコいいでやんの。

 曲の終焉に向けて徐々にまた穏やかな音色になっていって、最後にふたりが揃って、優しく六弦を撫でて締めた。

「はぁ、何個か音落とした、もっと練習しなきゃ…先生、また明日来ます」

 柏木は今度こそギターを片付けて、さっさと準備室を出ようとした。





62/80ページ
スキ