悠の詩〈第2章〉
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2階に着いて、2年生の先輩たちも行き交う中、柏木の姿を探す。
(あっいた)
柏木は別棟へ繋がる渡り廊下へ、角を曲がった所だった。
見つかるときっと厄介だろう、無意識に死角に隠れながら柏木の背中を追った。
別棟には理科室とかの特別教室と図書室と職員室があって、更に向こうに体育館とコートがある。
可能性が高いのは職員室か? 先生がどうのこうのって聞こえたから、先生と何か話すのかな。
と思ったら、柏木が急に止まったので俺は焦って、たまたま近くの調理室が開いていたからそこに滑り込んだ。
顔だけそっと廊下へ出してみると、柏木は斜め向かいの音楽準備室のドアをノックして、中へ入ったところだった。
他に誰も通らないのを確認してから、俺は準備室の扉の前に立った。
アイツ、こんな所に何用?
中の様子が気になって、ノブに手を掛けそうになるのを慌てて打ち消す。何しに来たの、まさかつけてきたの、柏木の冷たい視線が突き刺さるのは目に見えてる。
聞くだけならバレないか? 右耳を扉に宛がおうとしたその時、
「春海ちゃん? ナニしてんの? すんごい怪しいですけど(笑)」
突拍子に樹深が俺の肩越しに覗き込んできたから、心臓が派手に縮んで危うく膝を扉に打ちそうになった。
ちょっとカタカタ鳴ってしまったかもしれない。けど、気付かれた様子はなさそうで、ほっと息をついた。
「ばっか、驚かすなよ…お前こそこんなトコで何だよ、外のバレー行ってなかったのかよ」
俺が小声で話すのを不思議そうに、でも何か察したのか樹深も声を潜めて言った。
「いや、俺土浦先生に用があって職員室行ってて…先生いなくてさ。音楽準備室に行ったって聞いたから」
…