悠の詩〈第2章〉
56/80ページ
「じゃあ悠サン、私行ってくるね」
昼休みに入ると、由野は委員会へすっ飛んでいった。
一緒に食べていた柏木はその背中を見送ると、自分もゆっくりと教室を出ていった。
そういやアイツ、最近昼休みに姿を見ないな。5時間目が始まる直前に教室に戻ってくる。由野もその理由を知らなそうだった。
「──というわけで、第1希望の迷路は抽選の結果、惜しくも落選しました」
昼休みが終わって5時間目が始まるまでの間に、実行委員の船田がハキハキながらも残念そうに報告をした。そしてこう続けた。
「でも、第2希望は無事通りました! 1年4組は【なりきり美術館】で進めていきたいと思います。
つきましてはこの後の5、6時間目、話し合いの時間に充てられるので…
まずはこのアイデアを一番詳しく構想していた後藤くんに、もっと深い所を皆に説明して頂きたいと思います!
後藤くんお願い出来ますか?」
えー!? という樹深の声は、他の皆の拍手喝采に掻き消された(笑)
樹深はポリポリと頬を掻きながら立ち上がって、
「謹んでお受けしますけど…ちょっと時間を頂戴?(苦笑)」
皆の「いいぞいいぞー」の声に応えて律儀にお辞儀をした。
そして、着席した途端ものすごいスピードで紙に何か書き始めた。どうやら説明する為のメモを作るようだ。
樹深が考えた展示の構想、俺好きなんだよな。あいつが船田と由野に伝える時俺も横にいたんだけど、よくそんな事思い付くよなって感心しきりだった。
(がんばれよー)
今俺と樹深は同じ列の最前後、後ろを向いたらちょうど目が合ったのでそう口パクすると、
(だまらっしゃい)
恨めしげに樹深はそう口パクを返した。うはは、珍しいカオをするもんだ。でも本気で怒ってるとかではないのを知ってるから、俺にしてみれば笑いのタネでしかない。
…