悠の詩〈第1章〉

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 そうこうする内に式が始まった。

 着任式では新任2人転任3人の5人が紹介されて、後で知る事になるけど、その内のひとりが担任の土浦先生と昔なじみらしい。

 離任式は、入学したばかりの俺らには当然分からないんだけど、去っていく先生達を上級生達がかなり思いを込めて送り出して、申し訳ないけどその空気に最後まで馴染めなかった。

 やっと教室に戻れた時は、なんかどっと疲れちゃって、席に着くなり上半身をうつ伏せに机に投げた。

「なんか疲れちゃったねぇ。私達新入生いなくてもよかったんじゃ…?」

 由野が苦笑いをしながら振り返る。

 その時ちょうど柏木が席に着こうとしたので、由野が「ね?」と柏木に視線を送った。

 柏木はちょっと驚いた顔をしたけど、「うん」と少し表情を柔らかくしながら座った。

「あ、私、由野琴葉っていいます。お隣は、丸山欣貴よしきくん」

 急に自分に振られて、丸山は耳を真っ赤にしながら「よろしく」と頭を下げる。

「あっ、柏木さんの机にも名前」

 由野が、朝来た時には無かった、いつの間にか貼られた柏木のフルネームの紙を指で撫でた。

「男でも通りそうな名前」

 自分の二の腕越しにそれを見て、先生が黒板に書いた時にも思った事を、そのまま口に出した。

 柏木が目だけを動かす。

 俺を見て、次に机の名前を見て、

「そっちこそ、女子でもいけそうな名前だけど」

 【柳内春海】に視線を留めたまま言った。

 俺はうつ伏せのまま少しだけ頭を上げ、それに柏木がちょっぴり後ずさった。睨むつもりなんてなかったんだけど、柏木にはそう見えた?

 でも柏木は俺から目を外さないで、表情を変えずにポツリとこう言った。

「親は、男でも女でも大丈夫なように付けたって言ってた。考えるのが面倒だったともいう(笑)
 ハルミもそういった経緯?」





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