悠の詩〈第2章〉

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 俺が息を整える間もなく、電車はもう隣の駅を発車しようとしていた。

「この次だっけ? ○田駅」

「うんそう」

 樹深の問いに答えたのは由野。

「お? 声出るようになったか? 由野」

「うん。悠サンののど飴効いたみたい」

「…へ。
 ゆう…さん??」

 ってダレ? あぁ柏木、って、えええー…!?

 驚いているのは、俺だけ。丸山は普通、樹深は「え、喉どうかしてたの?」なんてそっちに気が行ってて、当の柏木はちょっと照れくさそうにしながら「どういたしまして」と応えた。

「扇風機に当たりながら寝てるのがまずかったかなぁ。声が出せないなんて苦痛よ、苦痛。みんなも気を付けた方がいいよ」

 全員が揃う前に買ったらしいペットボトルの水を飲みながら、由野はいつもの調子で喋った。

 それより、いつから柏木をそう呼んでる? 何でみんなそんな普通にしてんの?

 俺だけその馴染んだ輪みたいなものに入れないでいる内に、電車はもう目的の駅に着いた。

 ホームに降り、改札を抜けるまでの喧騒に紛れている隙に、俺は柏木にコソッと聞く。

「なあ、おい、何だってあんな呼ばれ方してんの」

「は? あぁそうか、キミ知らないんだったっけ。
 天体観測の時からだよ、名前で呼んでもいいかって聞かれて…
 はじめ悠ちゃん言われて、ちゃんはちょっとって言ったら、そうなった(笑)」

 先を行く由野の背中を見ながら、含み笑いをして柏木は言った。





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