悠の詩〈第2章〉
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「ほんとごめんね…もしかして電車何本か逃してる?」
樹深のしゅんとした声にはっとなった。樹深がこっちの様子をちらちらと窺っている。俺と柏木の嫌ーな雰囲気を察しちゃったんだろうか。
違う誤解だ、と言う前に、柏木が口を挟む。
「いやそんな事ないよ、ついさっき時刻表見てきたけど、この時間帯はあまり停まらないみたい。
最後に出たのは12:43、まだ誰も来ちゃいない時間だったよ。その次が12:52、でもそれ快速で、降りる駅に停まらない…でいいんだっけ」
言いながら柏木が由野に顔を向けると、由野はこくこくと頷いた。
「…で、その次が13:08。それに乗ればいいんだと思うけど」
その言葉に柏木以外の全員が自分の腕時計を見た。13:04。
「ギリ間に合うか…!?」
「みんなまだ切符買ってないよね!? 僕全員の買っちゃうから、後でひとり150円よろしくね!」
電車の事となるとテキパキと早い丸山が颯爽と切符をまとめ買いしてくれて、俺達は急いで改札を抜けて白いラインの赤い電車に駆け込んだ。
乗り込む最中に【発車致します、閉まる扉にご注意下さい】とアナウンスが流れて、5人全員が無事車内へ入った直後、扉は閉まり電車は出発した。
「はあっ、うっわ…まじでギリギリだったな」
すっかり身体が鈍っているのか、急なダッシュにありえないくらい息を切らす俺。
追い打ちをかけるように、
【ご乗車ありがとうございます。
駆け込み乗車は大変危険ですのでおやめ下さい。
次は○○駅、○○駅…】
なんてアナウンスが流れるもんだから、そりゃないよ、公開処刑しないでくれよ、ついその場でへたり込んでしまった。
そんな様子を、他の4人が肩を揺らして笑いを噛み殺していた。
おいこら、お前らも車掌さんに注意されてんだっつーの。
…