はるみちゃんとぼく

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【こらっ、ふざけた呼び方をするんじゃないの】

【え~、いーじゃんべつに】

 電話の向こうでのやりとりだけど、僕には容易に映像が浮かぶ(笑)

 小学校に上がるまではよく目の前で見ていた光景だった…そう思った時、なぜだか胸がちくっとした。

 それを誤魔化すように、僕は明るく春海ちゃんに声を掛ける。

「もしもしはるみちゃん、元気だった?」

『おー元気元気。
 なぁ聞いた? かあちゃん達出掛けんだって。しかも夜。ごはんどーしろっつーんだよ』

 どうやら本当に春海ちゃんには何も伝えてないみたい。

 春海ちゃんがどんな反応をするか、ドキドキしながら話をする。

「あのさ、えっとさ、うちのおとうさんがさ、野球のチケットもらってきてさ。
 招待、5人までOKなんだって。ぼくとおとうさんとおねえちゃんと、はるみちゃんとはるみちゃんのおとうさんとで、今度の土曜日行こうよ」

『えーまじで!?』

 春海ちゃんが素っ頓狂な声を出した。ちょっと笑いを含んでいたので、嫌がられてはいないようだ。

【なになに、春海、どうした?】

 受話器の向こう側で春海ちゃんのお父さんの声が聞こえた。

 春海ちゃんが受話器を離さないでそのまま喋る。

『とうちゃん、野球好きだっけ? 興味ある?
 チケットあるから今度の土曜にたつみ達と行こうって』

【野球かぁ。とうさん生で観た事ないから行きたいな】

『たつみー? 行く行く。とうちゃんも行きたいって』

「うん。全部聞こえてた(笑)」

 笑いを噛み殺しながら答えると、

『あっ、とうちゃんが、おまえのお父さんと話したいって。はいとうちゃん』

『もしもしタツくん? 久しぶり。お誘いありがとうね。お父さんにもお礼言いたいから、代わってくれるかな?』

 急にはるみちゃんのお父さんと代わったので、「うん、今代わるよ」ドキマギしながら答えて(さっきのおかあさんの気持ちがちょっとわかった)、おとうさんに受話器を渡した。

 「えっ? 俺!?」おとうさんはもっとあたふたして(笑)、一度咳払いをして「あーもしもし、ご無沙汰してます…」と仕事中みたいに話し出した。

 時間や待ち合わせ場所等を伝えて、「それでは土曜、宜しくお願いします。失礼します…」と電話を切った後、

「ぶはあぁ、めっちゃ緊張した…
 なにげに後藤さんとまともに話すの初めてなんだよ…
 電話越しでもスマートでかっこいいのが伝わるわ…
 父さんへこむわ~(泣)」

 なんて言うから、僕達みんな大爆笑だった。





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