悠の詩〈第2章〉
41/80ページ
体調悪いとかではないらしいけど、思うように声が出せずにもどかしそう。
大丈夫かよ、と言いかけた横から、腕がにゅっと出てきてぎょっとした。
いつの間にかこちらに渡ってきていた、柏木の握り拳。
「あっ柏木さんも来た」
「なんだよオメー、びっくりすんだろ…」
「え? あぁごめんごめん。
よかったらこれどうぞ」
俺にいい加減に謝って、柏木は由野に向かって突き出した手を上に向けて開いた。
個包装ののど飴。
「クセあるけど結構効くよ。
うちの劇…えーと、うちのお父さんがしょっちゅう声枯らすからさ…愛用品だよ。
それから、あまり喋らないように、水を多めに摂っておくと治りが早いよ」
柏木の説明を目を丸くして聞いてた由野(由野も、喋りがいつもより多い柏木に戸惑っている模様)。
でも次第に顔が明るくなって、「ありがとう」また声にならなかったけどそう言って、柏木の手の中の飴を摘まんだ。
久しく会ってなかったからか俺と丸山とで話が盛り上がったまま途絶えず、そこに由野が加わりたそうにするけど喉を気にして黙ったまま。
そこを気にかけたのかどうか知らないけど、柏木が「電車の時間見てこようか」と由野を誘って時刻表のある方へ離れていった。
そしてひとしきり喋り終えると、柏木と由野が戻ると同時に、向こうから樹深がゆったりと走ってきた。
…