悠の詩〈第2章〉
40/80ページ
「あっ柳内くん」
俺が横断歩道を渡りながら声を掛ける前に、丸山が先に気付いて手を上げた。
背を向けていた由野もこちらを振り返って、小さく手を振った。
「久しぶり」と口が動いたのに、全然声が聞こえなかった。信号機のメロディに掻き消されたんだろう、そう思った。
「おーっす。丸山は特に久しぶりだなぁ」
「ほんとうに。終業式以来だよね。後藤くんは? 一緒じゃないの」
「おー。樹深、家の人が帰ってくるまで出てこれないんだよ。でももうすぐ来るんじゃねーかな」
言いながら、何で柏木の名前が出てこないんだろうと思った。
でもそれもそのはず、一緒にいたと思ったけど柏木はまだ横断歩道の向こうにいた。
さらに言えば電柱の陰になるように立っていて、よっぽど今まで俺といたと思われたくないんだな(苦笑)
「由野、こないだは電話ありがとなぁ」
「どういたしまして」と口を動かしたのに、また聞こえなかった由野の声。
こんな近くでさすがにおかしいと思っていると、んんっと由野は咳払いをして、
「ごめん、なんか喉やられちゃったみたいで。聞こえづらかったらごめんね」
掠れ声に苦笑いをしながらそう言った。
どおりで、いつもなら通る声で元気いっぱいだもんな。
…