悠の詩〈第2章〉

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 らしくねー、と思いながら窓の外に目をやると、改札前でキョロキョロと見回しながら歩いている人影が見えた。

「お? 丸山。あいつも午前に用があるっつってたけど」

「あぁ、柔道部の練習があるって言ってた。遅くなったらごめんってさ…いらない心配だったね。さあ、私らも行こうか」

「おー。
 …あっ、ちょっとまて!」

「は、ナニ、あぶないな」

 トレーを持って立ち上がった柏木の手首を咄嗟に引っ張った。

 バランスを崩してふらついた柏木は俺をジロッと睨んだけど、俺が窓の外を見たままなので、自分もそちらを向く。

 丸山が控えめに手を挙げていた。向こうから由野が来たからだ。

 由野は丸山に気付いて、ぶんぶんと大きく手を振りながら丸山に近づいた。

(みんなは? まだ来てない?)

 声が聞こえるワケないんだけど、多分そう言ってんなって分かる由野の挙動(笑)

「あのさぁ…まさか、わざと遅れようって言うんじゃないだろうね?」

 呆れたような、冷ややかな声を出す柏木。

「だってさぁ」

 アシストしてやりたくなるじゃん? トモダチとしては。今日だってきっと、由野と居られるってガッツポーズだろうにさ。

 腕時計を見ながら由野に何か言っている、こんな遠くからでも分かるゆでタコの丸山を、こっそり応援してやりたいんだけどな。

「だってさじゃないよ、キミのはあからさまでわざとらし過ぎるんだよ。
 そんなんじゃかえって変な空気になる。
 前も言わなかったっけ? 見守ろうって。後藤くんもおんなじような反応するだろうさ」

 そう言いながら俺のトレーの分までさっさと片して、柏木は先に店を出ていった。

 なんだ、柏木のバッサリ具合は健在だったか。

 けど、やたら口数が多いからやっぱり、らしくねーや。





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