はるみちゃんとぼく

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 小学校の夏休みが始まってすぐのある日の夜の事。

あずさ樹深たつみ、みてみて。ジャーン!」

 と、僕のお父さんが帰宅直後得意げに掲げたのは、一枚の紙きれ。

 僕と四つ上のお姉ちゃんはそれをぽかんと見上げて、ペットの柴犬のイッサがお姉ちゃんの腕の中で脚をパタパタさせていた。

「それなーにー?」

「あっもしかして、遊園地のチケットとか?」

 お姉ちゃんが目を輝かせて言ったけど、それが野球観戦のチケットだと分かると「なーんだ」とあからさまにがっかりして、イッサのブラッシングをやり始めた。

「会社の同僚から貰ったんだ、招待券だぞ招待券。
 しかも我らが◯◯チームvs王者◇◇チームの対戦、行くっきゃないでしょ。
 これ一枚で5人までOKだから、次の土曜の夜、皆で行こうな」

 子供みたいにはしゃぐお父さん、それをお母さんがバッサリとこう切った。

「今度の土曜は私、柳内やなうちさんとお芝居観に行くって言ったでしょ。行くならあなた達でどーぞ」

 えー? せっかく久しぶりに家族全員で出掛けられると思ったのにっ、とまた子供みたいに口を尖らせるお父さん。

「あずー、たつー、お父さんと一緒に行くよな~?」

 キモい! とお母さんに白い目を飛ばされても気にしないお父さん、甘えた声を出して頬擦りをしようと僕とお姉ちゃんを両脇に抱えた。

 僕はヒゲのジョリジョリをまともに受けて「べつにいいよ」と言い、お姉ちゃんはお母さんと同じように「お父さんキモいから!」とピシャリと言って、お父さんの腕からスルリと抜けた。

「梓、一緒に行って貰った方がお母さんは安心だけど。
 じゃないと、あんたとイッサだけで夜遅くまでお留守番になっちゃうし。
 それにホラ、宿題の日記のネタにもなるんじゃない?
 お父さんに色々ねだっていいわよ(笑)」

 お母さんが夕飯を並べながらそう言うと、あぁなるほど、とお姉ちゃんの食指が動いたようだった。





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