悠の詩〈第2章〉
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よく眠れなかった、前日の夜。
その日の夕方に最後の診察を受けに行って、長い治療とリハビリの日々に終止符が打たれた。(ひと月ちょっとで済んだ、思えば超回復だったんだけど、当時の俺にしてみれば気の遠くなるような期間だった)
「くれぐれも無茶はしないように」と念を押されたけど、それは約束できねぇと心の中でニンマリとした。
とにかく右腕を目一杯動かせるのが嬉しくて嬉しくて、夜更けに部屋で何度もボーリングの素振りをする俺、怪しさ満載(苦笑)
どこまで小学生脳かってくらい気持ちが高揚していて、ようやくうつらうつらし出した時は、外の空がすでに白んでいた。
だもんで、当日の朝はすっかり寝坊して…かあちゃんに今日の資金をせびるのを忘れてた!!
焦って階下へ駆ける、時間はまだ10時を回ってなかったけど、すでにリビングにもダイニングにも人の気配はなかった。
おこづかいは貯めてるけど多分足りない…分かりやすく血の気が引いて、ダイニングテーブルに手をついてうなだれた俺の視界の端に、俺の分の朝食と、そのすぐそばにメモ書きと五千円札が1枚ポンと置いてあるのが見えた。
(春海へ。
たっくんのお母さんと出掛ける用事があるので
いってきます。
何度も起こしたけど、あんた全然起きないから。
おこづかいあんまり残ってないでしょ?
これで今日のお昼とボーリングをまかないなさい。
余ったら返す事。無駄遣いはしないように。
かあさん達は夕方頃帰ります。)
さっすがかあちゃん、用意周到、お見事。ありがたく五千円札を握りしめた。金欠だからって断る事になったらカッコ悪ィや。
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