赤い列車に揺られて
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赤い列車に揺られて、タタン、タタン。
私と友達が降り立った駅は──日ノ出町駅。
「ナギサ早く早く! あっソコ間広いから、落ちないでね!」
ホームと車体の間がやたら空いているのを大股で飛び越え、私達は改札を抜けた。
私達はとある商店街へ向かっている。友達の贔屓の路上ミュージシャンがいて、彼女に強引に誘われるままにここまで来てしまった。
「ああん、もう始まっちゃってるし、人もいっぱいいる。ほらナギサ、もっと前で聴こう」
♪~
姿が見える前から、その路上ミュージシャンの声は私の耳に届いていて、それは私の心をフワッと撫でた。なんて素晴らしい声をしてるんだろう。
「ゴトウタツミさんっていうの。カッコイイよね。いつか絶対プロになると思うんだ」
友達がコソッと私に耳打ちをした。
一曲終わり、被っている黒いチューリップハットに手を添えながら丁寧におじぎをしたゴトウさんと、バチッと目が合った。
その時私は、ゴトウさんのパフォーマンスに感動して、友達や他のギャラリーに比べてやたら大きな拍手を贈った所だった。
ゴトウさんは、きっと私より年上と思うのに、とてもあどけない顔で微笑んだ。
一発で、射抜かれた、私。
「ナギサ、どした? …惚れちゃった?」
意地悪そうに聞く友達に、
「ウン」
素直にうなずいた。
…