赤い列車に揺られて

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 赤い列車に揺られて、タタン、タタン。

 本線から枝分かれして電車が出発したのは──京急川崎駅。

 厄除けで有名な大きなお寺へ向かうこの路線のすぐ横に、道幅の広い車道が寄り添うようにある。

「…アッ! おい、アレ、ユーキじゃね!?」

 電車の中の、休日部活帰りの高校生男子三人が扉の傍で立ち話をしていたのだが、その内のひとりが窓の外に目を見張って小さく叫んだ。

「マジ!?」

「どこどこ!?」

 あとのふたりも声を潜めながらガラスに張りついた。

「マジだ! ユーキだ!(笑)」

「ナニやってんのアイツ!?(笑)」

 ユーキというらしいその友達は、 ゴーグル付きのメタリックハーフキャップヘルメットと革ジャンを装備して、颯爽とオンロードモデルのバイクを走らせていた。

 大きなスポーツバッグを足元に置いて、三人は大きく身振り手振りをした。

「あ! アイツ気付いた!(笑)」

「おぉーい、ナニやってんだよ! そんなとこでよ!(笑)」

 奇跡的にユーキは彼らに気付いて、片手をひと振りした。

 その直後、すぐ先の信号が赤になったので、ユーキのバイクはゆっくり減速をして、あっという間に電車のずっと後ろの方へ霞んで見えなくなった。

「いいなぁ、アイツ、二輪免許獲ったんだ」

「俺も早く獲りたいな。くそ、なんで早生まれなんだろ」

「俺も」

「俺も」

「…」

「…」

「…」

「「「…はあーぁー…」」」

 三人は深い溜め息をつきながら、見えなくなったユーキの方角をガラスからぼんやりと眺めた。





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