赤い列車に揺られて
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赤い列車に揺られて、タタン、タタン。
降り立った駅は──横浜駅。
ホームの階段を下りた先の小さな改札を抜けるとそこは、東口と西口を繋ぐ大きな連絡通路の中間点。
色んな路線が集うから乗降客数が半端なくて、見渡す限り人、人、人。
「リン! 手を離さないで、ちゃんとついてきなさい! マナちゃん! リンと手を繋いで、はぐれないでね!」
娘のリンと、リンと大の仲良しのマナミの二人を連れて、人の波を掻き分けてリンの母が辿り着いた先は、シーバス乗り場。
出航直前で、急いで乗船券を購入して、「お足元にお気を付け下さい」と船長に気遣って貰いながら乗船すると、ポーッと汽笛が鳴ってシーバスは静かに停留場を離れた。
「わあ、海の上、はじめて」
「私も」
「そうなの? この街に住んでるのに? へんなのー」
「だって、こんな所まで来れないよ。うちからここまで遠かったじゃん?」
あははそうだったね、とマナミはリンの言葉を聞いて屈託なく笑った。
リンは小学校6年の途中で転校し、入学当初からの親友マナミと離ればなれになった。飛行機を使わないと行き来できないくらい離れた。
小学校生活最後の春休みを利用してマナミが母親と一緒にこちらに来たのは、母親の大事な用事と、マナミがリンに渡す卒業アルバムを届ける為だった。
「リンはいいね、卒業アルバムふたつも貰えてさ」
マナミは羨ましがっていたけれど、リンは複雑な気持ちだった。
出来ることなら、向こうで卒業をしたかった。マナミと一緒に卒業したかった。
「ほら二人とも、見てごらん。すごいねぇ」
みなとみらい。赤レンガ倉庫。大桟橋。ベイブリッジ。
デッキで潮風を受けながら、リンの母の指差すベイエリアの風景を二人は眺めた。
「リンのママ。うちのママはどこで待ってるの?」
「終点の山下公園。そしたら、皆でマリンタワー…ほら、あの青い塔。上まで行こうね。それから、中華街でおいしいランチ食べよう。
マナちゃんが楽しめるように、リンといっぱい考えたよ」
マナミが来る前に母と自分とで練った計画を、マナミは嬉しそうに聞いて、「ありがとう」とはにかんで小さい声でリンに言った。
リンの心にあたたかい火が灯って、リンはマナミの手をぎゅっと握った。
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