宙に手を差し伸べたら

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 宙に手を差し伸べたら。





 かなた。かなたが先に逝ってから、もう10年が過ぎました。

 子供たちが巣立って、また二人きりの生活が始まってから、

「おれが先に死んでしまったらごめん」

 と、しょっちゅう言っていたね。

 かなたの言った通りになってしまって、かなたの「はるこは長生きしてほしい」という言葉の通りにもなった。

 かなたのいない毎日は、子供達や孫達のおかげで楽しいものだった。



 でも、そろそろ、かなたに逢いに行ってもいいかな。

 わたしはもう、十分に生きたよ。

 かなたに逢いたい…



 ひとり暮らす暗い部屋で仰向けになりながら、宙に手を差し伸べたら。



 その手を



 かなたがさらった



 ああ



 迎えに来てくれたのね



 わたしは



 十分に生きたこの時間に別れを告げて



 かなたの手を強く握った





 …もう永遠に離れない為に。










宙に手を差し伸べたら〈完〉





[リアルタイム執筆期間]
2016年8月27日~2017年3月4日

[改稿終了日]
2021年6月14日






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