宙に手を差し伸べたら
13/15ページ
はるこがスルリと手を抜けようとするのを、おれは逃がさないように必死だった。
顔を歪めたのは、おれの握った力が強過ぎたからか、それとも。
「べつに、たまたまだし…話す事なんて何も」
はるこは消え入りそうな声で、素っ気ない中に絶望を混ぜたように、言った。
オマエだって、何で先輩と一緒に? オマエ、おれに何にも言わなかっただろ。
なんて責めそうになったのを堪えた。
そんな事より、言わないといけない事がある。こんなに早くだなんて思いもしなかったけど、今言わなくっちゃ。
「はるこ聞いて」
と言う前に、おれは大きく吐息した。
これをはるこは勘違いしたにちがいない、今日で一番、悲しそうな顔をしたから。
おれは挫けそうになったけど、構わず話し出した。
「はるこが見た女の子は、同じ部署の後輩。
入ろうとしてた店の前でばったり会って…ここ、伯母が経営しているお店なんです、って。
おれみたいのがどうしてこの店にって、何か悟ってくれてさ…
よかったら伯母に紹介しますよって…それで一緒に店の中に入ったんだ。
それでその子はすぐに店を出て…俺はその伯母さんと話を…
はるこが考えてるような事じゃないんだ、おねがい、信じて」
ここまで話した段階で、はるこの尖った雰囲気は消えていて、ただただ困惑していた。
ワケわかんない? よな。
言ってもいい、はるこ?
「はるこ」
おれは片手ではるこの手を繋いだまま、もう一方の手でボディバッグの中を手探りした。
そして目的の物を掴むと、それをはるこの目の前に差し出した。
はるこはくるんとした大きな瞳を、さらに大きくした。
「はること…知り合ってからもう、13年も経つんだな。
人生の半分以上、常にはるこがおれの中にいて…
これから先も、はるこの傍に居たいよ。
おれを傍に居させてくれますか。
はるこ、好きです。
おれと結婚して下さい」
おれの一世一代の決意に、両手の甲で目を覆い空を仰ぎながら「思い違いをしててごめんなさい」と言って応えたはるこを、
優しく優しく包んだ。
…