宙に手を差し伸べたら

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 はるこがスルリと手を抜けようとするのを、おれは逃がさないように必死だった。

 顔を歪めたのは、おれの握った力が強過ぎたからか、それとも。

「べつに、たまたまだし…話す事なんて何も」

 はるこは消え入りそうな声で、素っ気ない中に絶望を混ぜたように、言った。

 オマエだって、何で先輩と一緒に? オマエ、おれに何にも言わなかっただろ。

 なんて責めそうになったのを堪えた。

 そんな事より、言わないといけない事がある。こんなに早くだなんて思いもしなかったけど、今言わなくっちゃ。

「はるこ聞いて」

 と言う前に、おれは大きく吐息した。

 これをはるこは勘違いしたにちがいない、今日で一番、悲しそうな顔をしたから。

 おれは挫けそうになったけど、構わず話し出した。

「はるこが見た女の子は、同じ部署の後輩。
 入ろうとしてた店の前でばったり会って…ここ、伯母が経営しているお店なんです、って。
 おれみたいのがどうしてこの店にって、何か悟ってくれてさ…
 よかったら伯母に紹介しますよって…それで一緒に店の中に入ったんだ。
 それでその子はすぐに店を出て…俺はその伯母さんと話を…
 はるこが考えてるような事じゃないんだ、おねがい、信じて」

 ここまで話した段階で、はるこの尖った雰囲気は消えていて、ただただ困惑していた。

 ワケわかんない? よな。

 言ってもいい、はるこ?

「はるこ」

 おれは片手ではるこの手を繋いだまま、もう一方の手でボディバッグの中を手探りした。

 そして目的の物を掴むと、それをはるこの目の前に差し出した。

 はるこはくるんとした大きな瞳を、さらに大きくした。

「はること…知り合ってからもう、13年も経つんだな。
 人生の半分以上、常にはるこがおれの中にいて…
 これから先も、はるこの傍に居たいよ。

 おれを傍に居させてくれますか。

 はるこ、好きです。





 おれと結婚して下さい」


 おれの一世一代の決意に、両手の甲で目を覆い空を仰ぎながら「思い違いをしててごめんなさい」と言って応えたはるこを、



 優しく優しく包んだ。





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