宙に手を差し伸べたら
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宙に手を差し伸べたら。
「…っ、はるこ、まって、おれの話を聞いて…!」
かなたが必死でわたしに手を伸ばすのを、わたしは見ないふりをしてくるりと背を向けた。
だって、わたし、見ちゃったから。
かなたが知らない可愛らしい女の人と、ジュエリーショップに入っていくのを。
かなたと付き合って5年、色々な事があったけど、それでもずっと一緒にいた。
就職先も運良く同じ所になれて、ただ、そこからお互いが自分の事に精一杯になって…
ふたりで過ごす時間が徐々に減っていった、それでも、わたし達は…
…
そう思っていたのは、どうやらわたしだけのようだ。
そんなわたしの背中にそっと手を添える、同じ部署の先輩。
先日わたしが仕事で大きなミスをして、それを先輩が助けてくれたから、そのお礼にとランチをしていたのだ。
そこでかなたのソレを目撃して…
「もう見切りがついたろ? さあ、車に乗って…」
先輩は助手席のドアを開けてわたしを誘導した。
わたしが席に腰を沈めて俯き、先輩がニヤッと笑ってドアを閉めかけた時。
「…なっ、なんのつもりだ、おまえ!?」
「すんませんけど、おれ、こいつに話あるんで、引き下がれません!」
かなたがドアの隙間に肘を入れて、完全に閉まるのを防いだのだ。
先輩がかなたを無理矢理引っぺ剥がそうとすると、逆にかなたが先輩を突き飛ばして、思いの外吹っ飛んだ。
「先輩、すんません! はるこ、きて」
一連の流れを呆然と見てたわたしはシートベルトをしてなくて、簡単にかなたに連れ出された。
ヒールを履いててうまく走れない、
「かなた、いたい」
わたしが言うと、かなたはやっと止まってくれて、ばつが悪そうにわたしを見た。
「はるこ、聞いて…まさか、はるこがあそこにいるなんて思わなかった…」
次を聞きたくない、かなたに繋がれたままの震える手をほどこうとすると、かなたはそれを許さなかった。
…