宙に手を差し伸べたら

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 宙に手を差し伸べたら。





「…っ、ちょっと、はるこ? オマエ、はるこだろ?」

 大学に入学して数日後のオリエンテーリングで、すれ違いざまにいきなり腕を掴まれてひゃっと驚いたわたしに、そう言った彼。

 おそるおそる見上げると、そこには懐かしい顔があった。

 昔の同級生、かなた。

 中学の卒業式以来会っていなかった。手紙を何通か送り合っていたけれど…

「久しぶり…同じ大学受けてたんだな…
 っていうか、オマエ、今までどうしてたんだよ?
 なんで…手紙出さなくなっちゃったんだよ?
 おれが出しても…そのまま返ってくるって、どういうことだよ!?」

 だんだんときつくなっていく口調と腕を掴む力。

 いたい、と呻くと「ごめん」とかなたはすぐに離してくれた。

 でもかなたは、納得がいかないようにわたしを真っ直ぐに見つめるので、わたしはそれに耐えかねて俯いた。

「ごめん…ね…
 高2になる前に…おかあさん亡くなって…
 なんにも…する気力が出なくて…
 かなたに手紙書くのも…しんどくて…
 おばあちゃんの家に引っ越したから…わたしもうあの住所にいないの…



 …なんにも知らせなくて、本当にごめんなさい…」

 ボソボソと言ったのに、かなたにはちゃんと伝わったみたい、彼は悲しそうに顔を歪めていた。

「ごめん、なんにも知らないでおれ、責めるような言い方」

「ううん、わたしがだめなんだよ、かなたは悪くない…」

 おかあさんがいなくなってから、わたしは抜け殻のように過ごしてきた。

 友達といても心の底から笑い合えず、そっと距離を置いて壁を作った。

 かなたとも…再会できたのは嬉しいけれど、きっと彼に辛気臭さを伝染してしまう…

 そう思ってかなたの手を振りほどこうとしたけれど、かなたは離さない。

「はるこ」

 かなたはもうひとつの手のひらをわたしに差し伸べて、言った。

「またこうやって見かけたら、話しかけていい?
 オマエ、無理してしゃべんなくてもいいから、おれが話しかけたら、おれのこと見てよ…



 …メーワク…?」

 かなたの声のトーンにじわりと目頭が熱くなった。

 迷惑なワケない…

 わたしはかなたの手を取った。




 わたしの中の時間が、やっと動き出した。





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