赤い列車に揺られて

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 赤い列車に揺られて、タタン、タタン。

 降り立った先は──上大岡。

「うっひゃあ! 久々ー! つーか、なんじゃこりゃー!?」

 かつての地元に30年近くぶりに帰ってきた、やたらハイテンションの男。

 彼が抱いているのは愛くるしい2歳の息子、きょとんと、すっかり変わってしまったらしい街並みを眺めている。

「人多過ぎだろ…ビルばっかりになっちゃったなぁ。駅もこんなんじゃなくってさぁ。
 りゅーちゃん、パパが子供の時はね、切符は駅員さんが切ってたんだよ、ハサミでパッチンて。りゅーちゃん知らんよな。
 でね、改札出てこっちに行くと…今はまーっすぐだけど、パパが子供の時は階段があって、上りきったら小っちゃい商店街があったんだよ。
 角っこにアイス屋があって、よくばあばに買って貰ったっけな。
 そんでね…今ここ、バスターミナルだけど、今歩いてる通路は昔は低い半トンネルみたいになってて…すぐ上を京急が走ってたな。
 あ、なんかだんだん思い出してきた…抜けた先にたしかパチンコ屋が…さすがにないか…一度だけ、じいじに連れてって貰ったんだよな。母さんには内緒なって言われたっけ(笑)」

 ぽやんと父の話を聞く息子の小さな手を引いて、男は一方的に喋りながら、どんどん駅から離れていく。

「うわあ、まじか、そうか…無くなっちゃったんだなあ。
 りゅーちゃん、ここにさあ、ペットショップ? があってねぇ。
 外にでっかいイケスが何個も掘られてて、鯉とか…見たなあ。落ちちゃいそうでちょっと怖かったなあ(笑)
 買わないのに、みんな通り道で抜けてたなあ(笑)」

 今はもうないものたちに思いを馳せる男に、息子はたどたどしい言葉で「ぱっぱ、じっじ、ばっば」と言った。

 それで男は我に返って、本来の目的を思い出した。

「そうだったそうだった。さあ、じいじとばあばに会いに行こうな」

 そして息子の身体をふわりと持ち上げて再び抱っこをすると、男は駅に向かって踵を返したのだった。





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