宙に手を差し伸べたら

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 宙に手を差し伸べたら。





「いやあーぁ、おかあさん、おかあさんーー…」

 ピッ…ピッ…と、心電計の機械音を掻き消すように、わたしの掠れた嗚咽が病室に響き渡る。

 全身に痛みが、でも、おかあさんはもっと痛かったんだ。

 私はおかあさんの運転で買い物に出掛けて、その帰りに…事故に遭った。

 安全確認を怠った車との衝突事故。

 助手席の私は打撲と擦り傷だけで済んだのに、おかあさんは…

 家で留守番のおとうさんと弟がもうすぐ来るはず、がんばって、おかあさんがんばって。



 おかあさんが力を振り絞って手をかざした



 その手は



 私が取る前に



 ぱたりと落ちた



「あ…あ…あああああ!!!」



 おかあさんおかあさんおかあさん



 宙に差し伸べられたその手を取ることが出来ていたら



 おかあさんはいかなかっただろうか





 落ちた手に自分の手を重ねて、私は…その後どうなったか、分からない。





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