宙に手を差し伸べたら
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宙に手を差し伸べたら。
(ぐはははは、コイツはさらっていくぜぇ)
(うわあん、うわあん、たすけて、にいちゃんたすけて)
宙にブラックホールみたいなのが出来てて、その穴に、悪魔みたいなヤツが小さい男の子の腰を掴んで引きずり込もうとしている。
男の子は泣きながら俺に小さな手を必死に伸ばして、おれもその子に向かって手を有らん限り伸ばした。
指がカチカチと当たるのに、どうしてか掴めない。
悪魔みたいなヤツは言った。
(コイツはダメなのさ。
そっちに行ったらダメなのさ。
また、はじめからやり直し…キキキッ)
(うわあん、いやだよ、そっちにいきたい、いきたい、いき…
……
……)
悪魔と男の子は、ブラックホールに飲み込まれて消えてしまった──
「……うあ!?」
勢いよく息を吸い込んで目を開けると、そこはおれの部屋。
汗びっしょりになりながら、仰向けで片手を天井に向けて握ったり開いたりしていた。
自分が置かれている状況が飲み込めないでいると、
「かなたー、7時とっくに過ぎてるよ。学校に遅刻するよ。さっさと支度なさい」
かあちゃんじゃなくばあちゃんが、1階からおれを呼んだ。
あぁなんだ…夢か。
この時すでに何かが違うふうに動いていたのだけど、おれは全く気付いていなかった。
どうして起こしたのがかあちゃんじゃないんだろうってさえ、思わなかったんだ。
へんてこな夢を見た事は、すぐに忘れた。悪魔の事も男の子の事も忘れた。
再び思い出すのは…もうずっと先の話。
…