宙に手を差し伸べたら

2/15ページ

前へ 次へ


 宙に手を差し伸べたら。





 指先にちょんと、やわらかい何かが触れて、わたしは反射してそれを握った。

「わあ、みてよ…ぎゅって…してくれたぁ」

「あっずるい、俺にも俺にも…」

 そんな声がしたと同時に、反対の手の指にちょんと別の感触、また反射してそれを握る。

「えへへぇ…かーわいいなぁ…」

「ねっ…まだ、見えてないはずなのにね…わかってくれてるのかなぁ…」

 そう、わたしはまだ視界が霞んでよく見えないけれど、声と匂いとぬくもりでわかるのだ。

 この人達が、生涯をかけてわたしを守るということを。

「あーっ…ほんと、かわいすぎ…嫁にやりたくねぇ…」

「ふ…っ、今から、そんな先の心配?(笑)」

 低い音と高い音の囁くようなハーモニーを聴きながら、わたしはウトウトとしだした。

 おなかに暖かいものが乗せられ、その上からトン、トン、と優しいリズムを刻まれる。

「おやすみ…生まれてきてくれてありがとう…」

「あなたを一生…守っていくからね…」





 この素晴らしい言葉を聞かせてくれたお礼に、わたしはもう一度握り、「あうー」と言った。





2/15ページ
スキ