赤い列車に揺られて
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赤い列車に揺られて、タタン、タタン。
切ない気持ちで彼とこの電車に乗る私が向かう先は──横浜駅。
「みさき、今日まで本当にお疲れ様」
「うん」
私達は同じ電車を使う同じ会社の同僚で、 何度も電車の中で遭遇する内に打ち解けて…結婚して生活を共にし始めたばかりの若い夫婦。
そして…今、私のお腹の中には新しい命がひとつ。
仕事の引き継ぎが全て終わって、今日私は退社した。彼は半休を取って、私の帰りに付き合ってくれた。
「……」
「…どうした? 気分優れない?」
ずっと喋らず扉のガラスの外を見ている私を、彼が心配そうに気遣う。
「ううん。こうしてこの電車に乗るのも、今日で最後だなぁって」
「うん。そっか。そうだね」
「物心ついた頃から、ずっと乗ってたよ。通学も通勤も、ずっとずっと、この赤い電車に…」
「…うん」
彼にそっと肩を抱かれながら、外の、夕焼けで赤に染まった流れる景色を眺めた。この赤い電車もきっと、この景色に溶けているに違いない。
一瞬ぐにゃりと視界が歪んで、自分がどうにかなってしまったかと思ったが、ただ、涙をにじませただけだった。
「見られちゃう」
彼が咄嗟に大きな片手で、私の両目を塞いだ。
彼の優しさに甘え…私は彼の手の陰でこっそり涙をこぼした。
【まもなく、横浜、横浜でございます。○○線、○○線──のお乗り換えはこちらです。】
横浜駅で乗り換えて、とある路線で約40分電車に揺られたら、私が嫁いだ彼の地元だ。
電車からホームに降り立った。振り返り、その赤い車体を目に焼き付ける。これでもう──赤い電車に乗る毎日はおしまい。
「みさき? 大丈夫? もう少し後ろに下がろうか」
彼が後ろから優しく呼びかける。
「トウマ」
「うん?」
「発車するのを…見送っていい?」
「…いいよぉ」
発車ベルが鳴り、電車がゆっくりとホームから旅立った。
赤い電車の後ろの顔がどんどん小さくなって、見えなくなるとやっと、私は彼とホームの階段を降りた。
私は大丈夫。
優しいこの人がいれば大丈夫。
おなかのこの子がいれば大丈夫。
新しい土地でも、がんばれる。
さあ、帰ろう。私達の家に。
…