waiting
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午後11時7分。
カチャリ…
「どうぞ入って…」
「おじゃまします…」
社会人1年目を過ぎた頃に暮らし始めた1DKの部屋に明かりを点け、芽衣子を招き入れる。
俺達はずっと、地下鉄に乗り込んでからここまで、一言も口を聞かずに、でも手だけは強く離さないでいた。
このアパートは少しばかり音が響く…夜遅くの帰宅の音は仕方ないにしても迷惑がかかるので、出来る限り小声で話した。
「ごめん、ちょっと散らかってる」
「ううん、そんな事ない」
チラシや雑誌が乱雑に置いてあるのを、苦笑する俺と、微笑みながら重ねて整頓してくれる芽衣子。
芽衣子の口から白い息が、外じゃないのに相当冷えてるらしい俺の部屋。
「今ストーブ入れるから待ってて…」
そう言って俺はキッチンの引き出しからマッチ箱を取り出して、マッチ点火式の石油ストーブに火を入れた。
「わあ、こうやって作動させるの?」
このタイプのストーブは初めてらしい、芽衣子はしゃがみこんで目をきらきらさせながら言った。
「実家からの譲り物なんだよ、古いものなんだけどね…まだまだ使えるから」
部屋が乾燥しないように、水をたっぷり入れたやかんをストーブの上に置く。
色々古くさいけど、逆に新鮮なのか芽衣子はストーブをいつまでも見ていた。
「あったかいね、一幸」
まだ部屋はそんなに暖まっていない、なのにそんな事を言う芽衣子の横顔が…可愛くて。
まだ上着を着たままの芽衣子の後ろから立ち膝で包み込んだ。
「わっ? 一幸?」
芽衣子が俺にもたれかかって、俺の脚の間にしりもちをついた。
「…芽衣子が俺ん家にいる…」
芽衣子が何か言おうとしたその口を、俺は芽衣子の顎を持ち上げて固めながら塞いだ。
「ン…っ」
芽衣子の甘い声が、唇が少し離れる合間に溢れて…
それは俺のスイッチを簡単に押した。
…