waiting
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「わっ? 停電、ですか?」
山下の言葉を聞いて、うそだろと俺は思った。
セキュリティシステムの関係で、停電すると全ドアのロックが掛かるうちの会社。
年に二、三回点検の為こうなる事があるけど、それは深夜にやる事がほとんど。
【社内に残っておられる社員の皆様、ご迷惑をお掛けしております。
只今停電の原因を調査中ですので、しばらくそのままでお待ち下さい】
そんな社内放送が流れて、俺はドアの前でガックリと肩を落とした。
芽衣子…待ち合わせの時間から1時間をとっくに過ぎている。
待ってくれているだろうか。それとも、何の連絡もない俺に怒って帰っちゃった?
とにかく早く、スマホを取り戻して芽衣子に電話を掛けたかった。
「あ…っ、長田さ…」
ふと、山下がボソボソと何か言って、長田さんも小声で何かを、全く聞き取れなかったけど、
ちゅっ
暗闇を飛んだリップ音だけはハッキリと聞こえた。
「…オッホン!
俺の前でいちゃつかない!
見えてないけども!」
社内恋愛の二人が羨ましくて、つい嫉妬じみた声を出してしまった。
山下と長田さんはすみません、と小さく謝って、その後またボソボソと、相田さん何あんなカリカリしてるの、なんて余計な事を言っていた。
俺だって、早く芽衣子とイチャイチャしたいよ。
ーーーーーーーーーー
「…へえ~、○○県から。
今日描いたお客さん達も色んな所から
いらしてたけど、キミがダントツに遠いね」
「はは…っていうか、すみません、
缶コーヒー頂いてしまって。
似顔絵のお店、中断させてしまいましたね」
「いいって、もう店じまいするつもりだったんだ。
みんな雪まつりのイルミネーションに夢中で
足を止めやしないんだよ。
ねえ…名前、なんていうの」
「私ですか? 岡田です。岡田芽衣子」
「メイコちゃん。かわいい…
僕はショウゴ。
…あのさあ。
僕ともっとあったかい所行かん…?」
…