FALL
82/87ページ
7時半を少し回って、支度を済ませた芽衣子ちゃんは寮から出た。
俺は、部屋の窓から外の様子を窺う。
本当は外まで見送ろうとしたんだけれど、別れがたくなるからと、芽衣子ちゃんに止められた。
車のすぐそばで、靖子がタバコをふかしていた。
ふー、と長く煙を吐き出しているところへ、芽衣子ちゃんがそこに辿り着いた。
靖子は携帯灰皿を胸ポケットから取り出して、タバコの始末をしながら、芽衣子ちゃんに何か言っている。
妙に冷たいような表情をしているので、芽衣子ちゃん、怒られているのかな? と心配になった。
俺のせいなのに。
思わず、ガラリと窓を開ける。
その音に、芽衣子ちゃんと靖子が同時にこちらを向いた。
…芽衣子ちゃんのほっぺ、真っ赤。
靖子は俺と芽衣子ちゃん、そしてまた俺を見て、パタパタと顔を扇ぐジェスチャーをして、ニヤリと笑った。
「ばっ……!」
拳を振り上げる真似をして、靖子に威嚇した。
靖子は、キシシといつものいやな笑いをして、車に乗り込んだ。
(相田さん)
遠くで声は聞こえないけれど、口の動きで分かる。
「うん?」
窓に身を乗り出して、芽衣子ちゃんを見つめる。
芽衣子ちゃんも、俺をじっと見つめて、そして、にこっと微笑んだ。
(ダ、イ、ス、キ)
そう、ゆっくりと口を動かして、大きく手を振り、助手席に乗り込んだ。
靖子の車が去っていった方を、いつまでも眺めていた。
最後の最後まで
芽衣子ちゃんに心を掴まれっぱなしだった
…