FALL

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「ない!
 ないない!
 それは絶…対、ない!」

 思わず芽衣子ちゃんを身体から離して、首を激しく振った。

「芽衣子ちゃん…それは…靖子が言ったの?」

 なんだか無駄にドキドキしてきた。

 そんなワケないはずなんだけれど、万一?

 いやいやいやいや…

「あ…いえ…私がそう思っただけですけど…」

 ほっ。だよね。

 靖子が俺を好きなんて、絶対ありえないから。

「でもね、ヤスコがあんな風に特定の人を誉めるのなんて、滅多にないもの…
 だから…そうなのかなぁって…
 だとしたら…私はヤスコには敵わないから…
 私の中だけにしまっておこうと…思ったの…」

 言いながら、芽衣子ちゃんは俺の袖下を軽く引っ張った。

 なんでそんな、いちいち可愛いかな。

「あのね、芽衣子ちゃん」

「きゃっ」

 後ろ手に背中をぐっと押して芽衣子ちゃんと密着すると、芽衣子ちゃんが短く叫んだ。

 再び、至近距離。

 芽衣子ちゃんの潤んだ瞳に、俺の顔が映る。

「俺と靖子の間には、友情だけ。すごく奇妙な、だけど。なんで友達やってるのかも、正直分かんない(笑)
 でも、靖子が俺の書いたものに興味を持たなかったら、俺は芽衣子ちゃんに逢えてなかったよ…?
 そこは…悔しいけど、感謝しなくちゃ、ね?」

 俺の言葉に、ふっと微笑んだ芽衣子ちゃん。

「ふふっ…はい…そうですね…」

「それに…」

 芽衣子ちゃんの顎を軽く持ち上げて、親指で唇をなぞりながら…続けた。

「…芽衣子ちゃんには…
 …誰にも敵わないんですよ…?
 …俺を…こんなに…ドキドキさせて…
 …心臓、もたないよ…
 ……どうしてくれるの……?」



 顔を真っ赤にさせて、両手を俺の肩にそっと置いた芽衣子ちゃん。



「…相田さん…
 ……だいすき……っ」



 掠れた声に

 理性が吹っ飛びそうになった





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