FALL

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 心臓が、ひどく震えた。

 芽衣子ちゃんに、好きと言ってもらえた。

 嬉しさ半分、驚き半分。

 信じられない気持ちの方が大きくて、思わず聞いた。

「もう…お兄ちゃんのフリしなくても…いいですか…?」

「…はい…」

「抱きしめても…いいですか…?」

「…はい…
 ふふっ…相田さん…どうして敬語?」

 やっと見れた、芽衣子ちゃんの笑顔。

 この笑顔が好き。

 遠慮がちに…芽衣子ちゃんの背中に手を回して、あの時と同じように…両腕に閉じ込めた。

 小柄で…華奢に見えるけど…ほどよく柔らかくて心地いい。

 芽衣子ちゃんは両手を俺の鎖骨辺りに添えて、片頬をぴったり添えた。

「風邪…うつってない…?」

「はい…大丈夫です…
 昨日、ジャケットとか掛けてくれたの、相田さんでしょ…?
 あったかかったです…」

「でも…昨日…キス…したでしょ…?」

「!!…」

 芽衣子ちゃんが目を見開く。

「したでしょ…?」

 少しいじわる気味に聞くと、

「…はい…」

 消え入りそうな、芽衣子ちゃんの声。

 くっくっと小さく笑って、続けた。

「実をいうとね…熱であんまり覚えてなくて。
 夢だったのかな、現実だったのかな、って…
 もし本当だったら…芽衣子ちゃんに風邪がうつるって思ったの…」

「…うん…」

 そっと…芽衣子ちゃんの頬を両手で包んで、上を向かせた。

「…ね…



 …俺から、したい…



…いい…?」



「……



 …うん…



 …して…?」



 そう言った芽衣子ちゃんは



 目に涙を滲ませて



 頬に驚くほど熱を持っていた





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