FALL
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それから…どのくらいの時間が経ったんだろう。
「……」
ゆっくりと、目を開けた。
まだ…夜。月明かりがやたら眩しいと思ったら、満月だった。
頭痛、ひいてる。身体も鉛のような重さを感じなくなっていた。
次の瞬間引き出されたのは、意識が落ちる前の…あれ。
あれは
現実?
飛行機に乗って帰っていったはずの、芽衣子ちゃん。
この部屋に来たはず…ない。
そっと、指を唇に触れてみる。
熱い息。
感触。
ありありと蘇り…頬に熱が集まるのを感じながらぼんやりとした、その時。
すうっ、と息を吸い込む音が聞こえて、はっとそちらの方へ目を向けた。
──俺の隣で、芽衣子ちゃんが背中を向けて眠っていた。
自分の、膝丈のダッフルコートを掛け布団代わりに、背中を丸め、膝を曲げて、縮こまるように、規則正しい寝息を立てていた。
──風邪をひく。
予備の布団は無い、毛布も、ブランケットも。
自分の布団は汗でぐっしょり、話にならない。
俺はゆっくりと起き上がって、部屋を見回した。
壁掛けに吊るしていた黒のダウンジャケットと家着用のカウチン、その隣に、芽衣子ちゃんがやってくれたのだろうか、昨日脱ぎっぱなしにしていたはずの、ダークブルーのロングジャケットがハンガーに直されていた。
そのみっつをもぎ取って、芽衣子ちゃんに重ねてやる。
少しは、あったかいかな。
芽衣子ちゃんの寝顔を見る勇気は…なかった。
君を傷つけた男の部屋に
君はどうして来たの…?
背中に問いかけても…仕方ないのに。
まだ、身体が気だるいと訴えて、もそもそと布団に戻った。
すぐにまぶたが閉じようとする。
今また眠りに落ちて、次に目覚めた時にはもう、芽衣子ちゃんはいないような気がして、必死に堪えた。
(芽衣子ちゃん)
くそ
まだ声が出ない
芽衣子ちゃんにちゃんとお礼が言いたい
芽衣子ちゃんにちゃんと想いを伝えたい
声が出せないのなら
いっそまた、抱きしめたら…?
──そこまで考えて、
あの日…ゆっくりと押されて距離を置かれた自分には、そんな資格はないと…戒めた。
ゆっくり…手を伸ばして…
芽衣子ちゃんの後ろ髪を、そっと梳いた。
冷たく細いさらさらの髪が、俺の指の間をするすると流れた。
「…んっ…」
芽衣子ちゃんが小さく呻いて、俺は咄嗟に手を引っ込めた。
愛しさと苦しさが同時に襲う。
そんな状態でありながら、容赦なく睡魔も襲う。
芽衣子ちゃん
まだ
行かないでもらえるかな…?
もう一度手を伸ばして
芽衣子ちゃんに掛けられているジャケットを軽く摘まんだ所で
再び意識を落とした
…