FALL
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え…
なんで…?
どうして…?
傷つけてしまった、好きでたまらなかった芽衣子ちゃんが…ここにいる。
現実として受け止めていいのか、戸惑ってしまう。
涙で滲んだ目を芽衣子ちゃんに向けると、袋をガサガサさせながら、こちらに向かってきた。
外の灯りに照らされて、芽衣子ちゃんの顔がようやくはっきり見えた。
「…大丈夫ですか…?」
ああ。
もう二度と聞く事はないと思っていた、優しいトーンの声。
「…電気、点けても平気ですか…? 失礼します…」
そう言って芽衣子ちゃんは、俺が眩しがらないように片手で両目を覆って、すぐ上にあった電気の延長コードを引っ張った。
芽衣子ちゃんの手が俺の顔に触れた時、よっぽど熱いと感じたんだろう、ビクッと震えた。
でもその手は、そのまま離れなかった。
すうっ…と上に上がって、俺のおでこにぴったりと張りついた。
ひんやりして、気持ちいい。
しばらくそうされて、やがてそっとその手は離れた。
「…相田さん、薬とか、飲みました…?」
「…ぅ…」
声が出ず、もどかしい。力なく首を横に振る。
「あっ…無理に喋らなくていいですよ…
さっき下で、寮母さんにお薬渡されたので…飲めますか…?
あっ…その前に、何かお腹に入れた方がいいかも…
喉、痛いんですよね…? リンゴのすりおろしとか、いけますか…?」
響かないように、小声で話してくれる芽衣子ちゃん。
こくりと頷くと、ほっとした顔を見せた。
どうして、君がここにいるの…?
俺の疑問が、少しだけ…伝わったのだろうか、芽衣子ちゃんがクスリと笑って、こう言った。
「ここ、本当は身内の人以外は入れないんですね。
だから…私…お兄ちゃんの看病に来ましたって言いました。
そしたら寮母さん、ちょうどよかったって、お孫さんと雪まつりに行く予定だったとかで。
相田くんの事よろしくお願いしますって…
リンゴ、擦ってきますね」
袋からリンゴを取り出すと、芽衣子ちゃんはそっと立ち上がって、小さい流し台へ歩いていった。
芽衣子ちゃんがそばにいてくれる。
ふと目を伏せたら、目尻から涙が零れそうだった。
…