FALL
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靖子の電話からすぐまた眠りに落ちて、次に起きたのはもう大分陽が傾いた頃だった。
強烈な喉の渇きで目が覚めて、這いずるようにして冷蔵庫から水のペットボトルを取り出した。
…まだ、だるい。
もそもそと布団に戻り、水は枕元に置いて、また眠りに落ちようとした。
ゴン、ゴン、ゴン。…ガチャリ。
入ってきたのは、全然らしくないノックだったけれど、坂本だった。
「よ。調子は…はは、まだよくねぇか。
講義のノート、とっといてやったからな」
サンキュ、と言いたかったけれど、声が出せず口がパクパク動いただけだった。
「あー、いい、いい。無理すんな。
あ、俺今日スイちゃんと雪まつりデート。俺達、昨日から付き合い始めましたー♪」
知ってるから。見たから。
俺が止まれなかったのは…アレを見たせいもあるのかな。
「寮の奴ら、全員雪まつりに出ていくみたい。
お前ひとり残していくのは忍びないが…
ま、寮のおばちゃんいるから大丈夫だろ。一応言っといてやるからな、安心して寝てろよ。
じゃ、お大事に!」
言葉の端々に坂本の幸せオーラが被さって、少々うざかった(苦笑)
でもまあ、一応は心配してくれてるようだから、いっか。
バタン、とドアが閉まって、はあ、と息をついた。
まだ、吐く息が熱い。
ペットボトルの水をふた口ほど流し込んで、布団に潜った。
それから…どれくらい時間が経っただろう。
部屋はすっかり暗くなり、外からの灯りが漏れているのが分かった。
坂本が出ていってから、うつらうつらしていたけれど、頭が痛すぎて眠りに落ちることが出来なかった。
薬、あったかな…ないよな…もう少し寝てたら治まるかな…
そんな事を考えていた時、
コン、コン、コン。
……
控えめなノック。
え、坂本? もう帰ってきた? またらしくないノックの仕方。
あ、もしかしたら、寮のおばちゃんかもしれない。
薬貰えるか、聞いてみよう。
「…ぐ…」
やばい。本当に声が出ない。
ノックの後、何の言葉もない。入ってこないのかな? 気付いて貰えないかな?
急に孤独を感じて、不覚にも涙が出そうになった。
──カチャリ。
ドアノブが小さく音を立てて、ゆっくりと廊下の光が射し込んだ。
う
そ
だ
息が、止まりそうだった。
ドアを開けたのは
いるはずのない
芽衣子ちゃんだった
…