FALL
55/87ページ
~♪
芽衣子ちゃんと気まずく別れて、一夜が明けた。
降りしきる雪の中を、傘も買わず、歩いて寮に戻ってきた自分。
頭はビショビショ、上はロングジャケットのおかげで平気だったけれど、膝から下はもう悲惨だった。靴の中の感触はもう思い出したくもない。
そんな状態で…よくタオルで拭かず、そのまま布団に転がり込んだ。
その結果…高熱を出してしまった。喉をやられ、頭がボーッとする。
~♪
鳴り止まない着信音、ほっとけばいいのに、出てしまった。
「はい…もしもーし…」
『ばかなのか? 相ちゃんは』
靖子だった。
時計を見る。9:13。え、仕事は?
聞けば、外回りで移動中だという。
『うちの従妹になにしてくれてんのさあ。
つか、なんにも話さないけど、あの様子はただごとじゃあないよ。
…ひっどい声だね?(苦笑)』
「あー…風邪。
…芽衣子ちゃん…怒ってた…?
…ぎゅって…したんだ…」
『……』
靖子が黙った。
なんとなく、目を丸くしている姿が想像出来た。
『はあー…そういうこと。
あのね、相ちゃん。あの子昔ね、おふざけだったんだけど、親戚のおじさんに抱きしめられた事あって。
やめてって泣いたんだけど、離してくれなくてね。
それがトラウマになってるところがある』
ひと息おいて、靖子は続けた。
『メイコ、今日の11時の飛行機だよ。
…どーする?』
「……」
今度は自分が黙る番だった。
どーする、だって?
「……。
38度だし。そうじゃなくても、大学あるし」
『っそ。じゃ、まあ、お大事に』
ブツッ。ツー、ツー。一方的に切られた。
靖子の呆れたような声が耳に突く。
俺が、芽衣子ちゃんを怖がらせたんだ。
靖子の話を聞いて、罪悪感しか残らない。
どうして…冷静でいられなかった?
芽衣子ちゃんの中で、俺との思い出は全部黒く塗り潰されただろうな。
俺は?
俺は…
……
体内に籠った熱を吐き出すように、はあっ、と深く息をついた。
そして、少々乱暴に、ケータイを床へ放った。
…