FALL

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 しばらくブラブラと歩いて、会場の端まで来た。

「ここまで、みたいだね。
 芽衣子ちゃん、大丈夫? 大分歩かせちゃったね。
 少しどこかで座ろうか」

「はい」

 カフェでもあったら入りたかったけれど、この辺にはなさそうだった。

 そういえばさっき、小さな公園を通り過ぎたっけ。

 芽衣子ちゃんの手を引いて、その公園まで戻ってきた。

 辺りはシンとして、人ひとりいなかった。

 ベンチに腰を沈め、ここでようやく手が離れた。

 ポケットから、さっき芽衣子ちゃんにいただいたコーンスープの缶を取り出して、プシュッとプルタブを開けた。

 芽衣子ちゃんはそれを見て笑って、

「まだ、あったかいですか?」

 言いながら、自分も同じように缶を出した。

「…んっ、あったかい、でも火傷するほどじゃないよ(笑)」

「そうですか(笑)」

 二人で、ズズッとスープをすする。

 ほうっと溜め息を同時についたので、くくくっと笑い合った。

「芽衣子ちゃん…時間は? そろそろ帰らないと…でしょ?」

 ケータイの時計を確認する。17:57。すでに、星が瞬いている。

「はい…そうですね…」

「俺、靖子んちまで送るから。確か、○○駅から地下鉄乗ってくよね?」

「あ…はい、でも、大丈夫ですよ。ひとりでも帰れます。道わかります…あ」

「うん?」

 芽衣子ちゃんが言葉を切って、空を見上げた。

 つられて顔を上げると…

「わあ…また降ってきたぁ…」

 紙吹雪みたいに軽く舞い降りる雪を、芽衣子ちゃんは立ち上がって、限りなく顔を輝かせて見ていた。

 さっきより強い降りで、あっという間に地面が白くなる。

 芽衣子ちゃんがかぶっている黒いキャスケットも…雪化粧。

「芽衣子ちゃん、積もってる(笑)」

 俺は立ち上がって、芽衣子ちゃんの後ろからポンポンと雪を払った。

 芽衣子ちゃんはビックリしたのか、こちらを振り向いたと同時に…足を寄ろめかせて、転びそうになった。

「「あっ…」」

 声が、重なる。

 咄嗟に二人とも、お互いの腕を掴んでいた。

 なんとか、転ばずに済んで、

「あ…っぶなかったですね(笑) 相田さん、ごめ…」



 足元を整えながら言う芽衣子ちゃんを無視した俺



 掴んだ腕をそのまま引き寄せて



 もう片方の手を背中に回して



 ぎゅう…っと



 芽衣子ちゃんを閉じ込めた





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