FALL
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○○駅にバスが着いた時、雪は降り止んだけれど、地面は2cmほど積雪していた。
「ゴム底のブーツ履いてきててよかった」
バスを降り立つと、白い息を吐きながら芽衣子ちゃんは言った。
「あ、そうだ、芽衣子ちゃん、忘れない内に」
「えっ」
芽衣子ちゃんの手を引っ張って、雪まつりの特設ショップに入る。
観光客目当てのこの店、普段ならちっとも気にしないのに、どうしても芽衣子ちゃんと入りたかった。
俺はまっすぐレジに向かって、そのすぐ横のショーケースに陳列されている物を指差して、店員さんに声を掛けた。
「すみません、これ下さい。袋には入れないでいいです」
「かしこまりました。こちらでございますね」
店員さんは手際よく、後ろの在庫棚からそれと同じ物を取り出し、お間違いないですかとしっかり確認してから、俺に手渡した。
「あの、相田さん?」
会計を済ませている所に、芽衣子ちゃんが困惑気味に俺に言った。
また芽衣子ちゃんの手を取って、出入口を出てすぐに横にズレた。
「急に、ごめんね?
芽衣子ちゃん、これ、貰ってくれる?
昨日、俺が全部使っちゃったから」
さっき買ったのは…今年の雪まつりの記念テレフォンカード。
2枚組で、ひとつは手描きの雪だるまの絵。もうひとつは雪まつりのイルミネーションの写真。
「そんな! 悪いですよ、私なんかの為に…
受け取れませんよ…」
言うと思った。
でも、今日は俺は引かない。
「悪くない。
どんな事でも…思い出に残して。
俺からの、ほんの気持ち」
「でも…全然、ほんのじゃないじゃないですか」
芽衣子ちゃんに言われて、思わず苦笑いした。
そうだよ、全然、ほんのじゃない。
芽衣子ちゃんは多分違う意味で、金額的な事を言ったんだと思うけれど。
「じゃあ、せめて…1枚、相田さんが持っててくれませんか…」
「ダメ。却下。2枚とも、芽衣子ちゃんが持つの」
「ええーっ…」
芽衣子ちゃんが泣きそうな顔をする。
ぎゅっと心が締めつけられたけれど、譲るわけにはいかない。
しばらく、沈黙。
見つめ合う…お互いの思う事を探り合うこの時間は、やっぱり少し…居心地が悪い。
堪えかねて…口を開いた。
「…ごめんね? ちょっと、強引だよね(苦笑)
でもやっぱり…持ってて?」
そう言って、芽衣子ちゃんの手を開かせて、その上にポンッとテレカを乗せた。
すると、芽衣子ちゃんはきゅっとその手を閉じて、
「私、相田さんに貰ってばっかりだ」
「えっ?」
芽衣子ちゃんが何か言葉を零したけれど、聞き取れなかった。
「いえ! なんでもないです。
相田さん、本当にいいの?
ありがとう…大事にする…」
テレカを両手で摘まみながら目を伏せる芽衣子ちゃんを見て、俺はやっとホッとした。
「うん。
まあ、使う時は使っちゃってね。
あ、でも、もうすぐケータイデビューするんだっけ」
俺の言葉に芽衣子ちゃんはくすっと笑みを零して、
「あっそうだ、代わりというか、代わりにはちっともならないですけど」
そう言うなり、すぐ横にあった自販機でコーンスープの缶を二つ買って、一つを俺のロングジャケットのポケットに忍ばせた。
「寒いでしょ? カイロ代わりにどうぞ。
あ、コーヒーとかお茶の方がよかったですかね。
ごめんなさい、私の趣味で買っちゃいました(笑)」
「ううん(笑) スープ、俺も好き。
…ありがとう」
「ほんとう? よかったぁ」
歩きながら、片手を缶の入っているポケットに突っ込んで、
もう片方は…
もう迷わず…
芽衣子ちゃんと手を繋いだ。
…