FALL
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「私、読んだの高2の時でした。
法事で家族で靖子の実家に来た時に、靖子に見せて貰ったんですよ」
「あー、うん、そうなんだ。
ったく、靖子のヤツ。何か変な事言わなかった?」
「メイなら滝の如く大号泣するって。
アタシですら涙がちょちょぎれたって、あの時は言ってましたね」
「なんだそれ(笑)」
苦笑いをしながら、高校時代を思い返す。
靖子とは高3でクラスが同じになり、席が近かったけれど、特に話す間柄でもなかった。
パッと見が、その、派手で少し怖かったから、無意識に避けていたんだと思う。
文化祭の当日、俺と靖子はクラスの展示で受付をやっていて、客足がひいた時間に、文芸部の冊子をパラパラとめくっていた。
製本されたのをまだ見てなかったので、他の部員がどんなのを書いたのか読みたかった。
「んー? ナニ見てんの、相ちゃん?」
あ、相ちゃん??
今まで話した事ないのに、いきなり馴れ馴れしい。
思わず冊子を背中に隠すと、靖子はいとも簡単にひょいと取り上げた。
「あっ」
「ふーん。相ちゃん、文芸部だっけ?」
「そうだけど」
「書いたの、どこに載ってんの?」
「…53ページ」
「ふーん」
ペラペラとページをめくる靖子。
はたと指と視線が止まって、俺の話を見つけたのだろう、静かに目で文字を追い始めた。
「……」
「……」
一言も発しない、俺達。その間、客は誰一人来なかった。
パタン、と靖子が冊子を閉じた。
「相ちゃん、これってタダ?」
「え? 文芸部の教室で自由に持ってってもらってる物だけど」
「そんならよかった。コレ、アタシ貰うよ」
「え?」
「相ちゃん、イイの書くじゃん。
そんな気がしたんだよ。
ほら、昨年の修学旅行の作文、学年誌に載ったことあったじゃん。
アレも面白くてよかったよ」
靖子の口から驚かされる言葉ばかり出てくる。
「あー、岡田って、そんなの読むの? 全然、そんなイメージないけど」
「ひどっ。読むわよー♪ たまには(笑)
それと、アタシの事はヤスコと呼びな」
「はあ、まあ…いいけど」
「かっかっか。まあ、これからも宜しく、相ちゃん」
そう言って、靖子は俺の肩をバシッと叩いて、席を立った。
気が付けば、受付を任される時間をとっくに過ぎていた。
それ以来、俺と靖子の奇妙な友情関係が続き、今に至る。
「あ、そういえば昨日、ヤスコに卒業アルバム見せてもらいました。
相田さん、メガネ掛けてたんですね」
「げっ。見たの? やだなもう」
「ふふふ」
靖子のヤロー、ほんと余計なことばかりするな、もう。
…