FALL
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「相田さん、ワイルドノースってここから遠いの?」
芽衣子ちゃんが聞いてきた。
「うん、ちょっと遠いかな。地下鉄に乗って…あ!」
芽衣子ちゃんに話している途中で、ある物が目に入る。
この町の路面電車。ちょうどすぐそこの停留所に入ってきた所だった。
「ちょうどよかった、あれに乗ろう! 芽衣子ちゃん、走れる!?」
「えっ、あっ…」
芽衣子ちゃんの返事を聞かない内に、芽衣子ちゃんの手を取って停留所へ走り出す。
乗り込む人の列が途切れたと同時に、なんとか辿り着いた。
「セーフーゥ。あっと、整理券整理券。はい、芽衣子ちゃん」
「はあっ…あっ、はい」
息絶え絶えの芽衣子ちゃんの手に整理券をぽんと乗せて、後ろの空いてる席に腰を下ろした。
「よかったぁー、乗れたぁ。
これの方がプールに近いんだけど、1時間に1本しかないんだよね。
芽衣子ちゃん、路面電車は初めて?」
「うん、あの、相田さん、あのね」
「うん?」
あれ? 芽衣子ちゃんのテンションが、低い? 急に走らせた事、怒ってる?
「あっ、ごめんね!? 急に走らせて、本当にごめん! 足痛くした?」
「ううん! 大丈夫です、そんなんじゃないです。
あの、相田さん」
「うん?」
まだ歯切れが悪い。しかも、俺の方を見ない。
嫌われた? こわい。
「あの…
…手…」
手。
手?
「あっ、あーっ、うん」
無意識に手を繋いで、走って、そのままだった。
芽衣子ちゃんの、小さくて柔らかい手。
許されるなら、ずっとそのままでいたい。
けど、そんなわけにいくかよ。
理性と欲望がケンカしてる。
それを、芽衣子ちゃんには悟られたくない。
「…ごめんね?」
一度ぎゅっと、芽衣子ちゃんの手を少し強く握ってから、離した。
それでやっと、芽衣子ちゃんがこっちを向いてくれた。
…