FALL

33/87ページ

前へ 次へ


「相田さん! おはようございます。待たせちゃいましたか?」

 信号が青に変わって横断歩道を渡る途中で、芽衣子ちゃんが俺に気付いた。

 ぱっと笑顔になって、小走りに来てくれたのがカワイイ。

「おはよ。
 んーん、そんなに待ってないよ」

 もし本当の事を言ったら、どんな顔をする? 試したい気もしたけど、そんな勇気は出てこなかった。

「あ、昨日の帽子」

 昨日お買い上げの黒いキャスケット。

 カラオケの時のダッフルコートにもよく似合っていた。

「えへへ。今日は男の子じゃ、ないでしょう?」

 そう言って、くるりとターンを披露する芽衣子ちゃん。

 膝丈のスカートが少しふわりと浮いて、ドキッとした。

 あの日見てしまった記憶が生々しく蘇る…

 今日は、芽衣子ちゃんは黒いストッキングを履いてたけれど。

「う、ん。平気平気。
 今日はほら、お兄さんがいるのでね。
 悪い虫は来ないでしょ」

「ふふっ。それもそうですね」

 俺の動揺には、芽衣子ちゃんは気付いてないようだった。





33/87ページ
いいね!