FALL
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「相田さん! おはようございます。待たせちゃいましたか?」
信号が青に変わって横断歩道を渡る途中で、芽衣子ちゃんが俺に気付いた。
ぱっと笑顔になって、小走りに来てくれたのがカワイイ。
「おはよ。
んーん、そんなに待ってないよ」
もし本当の事を言ったら、どんな顔をする? 試したい気もしたけど、そんな勇気は出てこなかった。
「あ、昨日の帽子」
昨日お買い上げの黒いキャスケット。
カラオケの時のダッフルコートにもよく似合っていた。
「えへへ。今日は男の子じゃ、ないでしょう?」
そう言って、くるりとターンを披露する芽衣子ちゃん。
膝丈のスカートが少しふわりと浮いて、ドキッとした。
あの日見てしまった記憶が生々しく蘇る…
今日は、芽衣子ちゃんは黒いストッキングを履いてたけれど。
「う、ん。平気平気。
今日はほら、お兄さんがいるのでね。
悪い虫は来ないでしょ」
「ふふっ。それもそうですね」
俺の動揺には、芽衣子ちゃんは気付いてないようだった。
…