FALL

28/87ページ

前へ 次へ


 結局芽衣子ちゃんは、そのキャスケットをご購入。

 一旦お店に入って、また出てきた。

「相田さん、お待たせしました。いい買い物が出来ました、ありがとうございます」

 深々とお辞儀をする芽衣子ちゃん、一昨日と全く変わらない。

「芽衣子ちゃんって、すごい丁寧だね。そんなに気を遣わなくてもいいのに(笑)」

「そうですか? あ、バイトのおかげかな。
 お惣菜屋さんなんですけど、ありがとうとすみませんは徹底されてます(笑)」

「あはは、そうなんだね(笑)
 ところで、その帽子で本当によかったの? 俺、散々からかっちゃったのに」

「もう、ほんとですよ(笑)
 でもいいんです。迷ってたけど、相田さんが似合うって言ってくれたから。
 虫除けにも使います(笑)」

 芽衣子ちゃんと話すと、何でこんなに楽しいんだろう。

 一昨日会ったばかりの子で、まだちょっとの時間しか過ごしていないのに、どんどん惹き寄せられていく。

 こんなにいい子なら、彼氏がいたっておかしくない。

 彼氏、いるんだろうか。この笑顔を独り占めしてるヤツが、いるんだろうか。

「? 相田さん?」

「わっ」

 急に黙り込んだ俺を不審に思ったのか、芽衣子ちゃんが顔を覗き込んできた。

 アップ。

 心臓が跳ね上がる。

「? どーしました? ビックリさせちゃった?」

「いやいや…」

 やば。ドキドキがおさまらん。

 目を泳がせていると、芽衣子ちゃんが手にしている物が目に入った。

 紙切れ、2枚。

「芽衣子ちゃん、なに、それ?」

「あ、これ、帽子買ったらお店の人がくれました」

 そう言って、芽衣子ちゃんはそれを渡してきた。

「ん? 割引券?
 …あ! すげえこれ、招待券じゃん! しかも、ワイルドノース!」

 なんと、昨日の足湯の時に見た、あの室内遊園プールの招待券だった。

「ワイルド? なんですか? プール?」

 芽衣子ちゃんが首をかしげる。

「うん、そう。けっこうでかいよ。
 って言っても、俺も行ったこと無いけど。
 最近出来たばかりなんだよ」

「へえ~、そうなんですね。
 じゃあこれ、相田さんにあげる。
 私はもう、明後日には帰っちゃうから。
 お友達と行ってきて下さい」

 芽衣子ちゃんが笑って言った。

 思いがけず、芽衣子ちゃんの帰る日が分かってしまった…





28/87ページ
いいね!