FALL
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結局芽衣子ちゃんは、そのキャスケットをご購入。
一旦お店に入って、また出てきた。
「相田さん、お待たせしました。いい買い物が出来ました、ありがとうございます」
深々とお辞儀をする芽衣子ちゃん、一昨日と全く変わらない。
「芽衣子ちゃんって、すごい丁寧だね。そんなに気を遣わなくてもいいのに(笑)」
「そうですか? あ、バイトのおかげかな。
お惣菜屋さんなんですけど、ありがとうとすみませんは徹底されてます(笑)」
「あはは、そうなんだね(笑)
ところで、その帽子で本当によかったの? 俺、散々からかっちゃったのに」
「もう、ほんとですよ(笑)
でもいいんです。迷ってたけど、相田さんが似合うって言ってくれたから。
虫除けにも使います(笑)」
芽衣子ちゃんと話すと、何でこんなに楽しいんだろう。
一昨日会ったばかりの子で、まだちょっとの時間しか過ごしていないのに、どんどん惹き寄せられていく。
こんなにいい子なら、彼氏がいたっておかしくない。
彼氏、いるんだろうか。この笑顔を独り占めしてるヤツが、いるんだろうか。
「? 相田さん?」
「わっ」
急に黙り込んだ俺を不審に思ったのか、芽衣子ちゃんが顔を覗き込んできた。
アップ。
心臓が跳ね上がる。
「? どーしました? ビックリさせちゃった?」
「いやいや…」
やば。ドキドキがおさまらん。
目を泳がせていると、芽衣子ちゃんが手にしている物が目に入った。
紙切れ、2枚。
「芽衣子ちゃん、なに、それ?」
「あ、これ、帽子買ったらお店の人がくれました」
そう言って、芽衣子ちゃんはそれを渡してきた。
「ん? 割引券?
…あ! すげえこれ、招待券じゃん! しかも、ワイルドノース!」
なんと、昨日の足湯の時に見た、あの室内遊園プールの招待券だった。
「ワイルド? なんですか? プール?」
芽衣子ちゃんが首をかしげる。
「うん、そう。けっこうでかいよ。
って言っても、俺も行ったこと無いけど。
最近出来たばかりなんだよ」
「へえ~、そうなんですね。
じゃあこれ、相田さんにあげる。
私はもう、明後日には帰っちゃうから。
お友達と行ってきて下さい」
芽衣子ちゃんが笑って言った。
思いがけず、芽衣子ちゃんの帰る日が分かってしまった…
…