FALL
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「ありがとーございましたぁー」
背中で店員さんの見送りを受けて、俺と芽衣子ちゃんはラーメン屋を出た。
「あぁー、美味かったなぁー」
いつものノリでそのまま寮に向かうところだった、今は芽衣子ちゃんが一緒にいる。
「芽衣子ちゃん、この後のご予定は? 何かある?」
「いいえ。そろそろ帰らないと、ヤスコが心配してると思うので」
そっかぁ、もうこれで芽衣子ちゃんとはお別れか。
そういえば芽衣子ちゃんは、いつまでこっちに滞在するんだろう。
まだいるのなら、明日も会いたい。色々案内してあげたい。
芽衣子ちゃんは…迷惑かな?
そんな事を考えながら歩いていたら、いつの間にか横にいたはずの芽衣子ちゃんがいない。
くるっと後ろを振り向くと、先ほど芽衣子ちゃんが見ていた帽子屋で、また立ち止まっていた。
「買わないの?」
「えっ」
「帽子。気になってるんでしょ? 今日俺と会った時から、ずっとそれ見てる(笑)」
芽衣子ちゃんが手にしている、真っ黒いキャスケット。
ベルトが洒落ていて、一見メンズ物のようだけど、サイズが小さめなのでレディースとしても大丈夫そうだった。
「ほら、似合ってる」
「!」
芽衣子ちゃんの頭にそれを乗せる、芽衣子ちゃん、ビックリ顔。
今日の芽衣子ちゃんの格好がボーイッシュだから、改めて全身を眺めると…ちょっと、幼い男の子みたい。
「きゃー、芽衣子さんったら、男らしい!」
「あーっ! ヒドイこと言う、相田さん!!」
頬を赤らめて、怒るというよりは困惑顔の芽衣子ちゃん。
こういう反応をされると、いじわるしたくなってしまう。
あれ、俺、そんなキャラだった?
「んーっ、ほんとに男の子にしか見えない?」
「ゴメンゴメン、似合い過ぎてるからつい、ね…」
語尾が、笑いを堪えていたから掠れた。自分に弟が出来たような気分?
「もー! 相田さん、キライ」
「えっ!? ああっ、ウソウソ! もう笑いません!」
芽衣子ちゃんの一言で、自分でもビックリするぐらい動揺した。心臓がバクバクする。
でも、そんな俺の様子を見て、膨れっ面だった芽衣子ちゃんがまた笑顔を見せてくれたので、ほっとした。
「ほら、えーと、そうだ、芽衣子ちゃんはすごくかわいいから。
男の子っぽくして、悪い虫がつかないように。うん。
お兄さんとしては、結構心配なわけですよ」
並べ立てた俺の言葉に、再びビックリ顔の芽衣子ちゃん。
「お兄ちゃんっていうか、相田さん、ナンパしてるみたい(笑)
ナンパなんてされた事ないけど、こんな感じですかね?
私に声かける人なんて、相当目のない人でしょ」
逆に芽衣子ちゃんが、イタズラっぽく言ってきた。
「え? 何言ってんの。
芽衣子ちゃんはかわいいの。
もっと自覚して」
「え、あ、やー、だから、相田さんまでナンパのマネ、することないじゃないですか…」
「え? あっ、その、だからね、ほら。
一昨日のカラオケの時もさ、芽衣子ちゃんが一番人気だったからさぁ…」
芽衣子ちゃんが恥ずかしそうに俯くので、自分も何恥ずかしい事を熱弁してるんだろうと、芽衣子ちゃんの方を向けなくなってしまった。
芽衣子ちゃんの前だと色々墓穴を掘ってるな、俺。
…