FALL
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「はい、味噌と塩。ギョーザ2皿ね。お待ちどおさん」
俺のドキドキに気付く風でもなく、芽衣子ちゃんはラーメンとギョーザを受け取っていた。
「はい、相田さんの塩」
「ん、ありがと」
芽衣子ちゃんに箸を渡して、一緒にいただきますをする。
芽衣子ちゃんはバッグの中からヘアクリップを取り出して、片耳の下の方に髪を挟みこんだ。
「お、手慣れてるねぇ。もしかして、けっこう食べ歩いたりするの?」
「えへへ。ひとりではまだ未体験ですけど、友達とかバイト仲間の子とかと、わりとしょっちゅう食べます」
「へえー。それは、男子含めて?」
「はい。男の子がいる時も、たまにはありますね」
自分で話を振っておいて、いざ芽衣子ちゃんの言葉を聞くとモヤモヤする。
そうなんだ、男とも行くのか。
ズッ、ズッ、とラーメンをすする音だけしばらく続き、あっ! と芽衣子ちゃんが思いついたように声をあげた。
「そういえば相田さん、一昨日のあの後どうでしたか? 皆さんと楽しかったですか?」
「ん? あぁ、カラオケの後の事? うん、楽しかったよ。居酒屋でごはん食べたんだけど。
そうそう、そのお店のメニューでね、“ひとくちの幸せ”っていうのがあって」
「え、何ですかそれ。どういうやつなんですか?」
「カレースプーン位の大きさのやつに、前菜が乗ってるの。
その時のは白子と野菜と、なんかジュレが乗ってて。
数が少なかったから、坂本、あ、ドレッドヘアの奴、覚えてるかな?
アイツ食べ損ねてさ、俺も幸せ欲しかったー! って(笑)」
「あははは。それは悔しいじゃないですか。相田さんは食べたの?」
「うん、美味かった。幸せいただきました(笑)」
ひとしきり笑って、またラーメンをズッ、ズッ、ズッ。
「いいなぁ、私も食べたかったな。ヤスコのお許しが出てたらな。
あ、どっちにしろ未成年だから、入れないですね」
「ん? あれ、芽衣子ちゃんって、いくつ?」
「あ、私19です。春になればハタチなんですけどねぇ」
「ふぅん。そうでしたか。大人まで、あとひと息ですね」
「はい。あ、相田さん今ちょっとコドモとか思ってるでしょ?」
「いえいえー、そんな事ないですよー?」
「ほんとかなぁー? ふふふ」
また一緒のタイミングでラーメンをすする。
芽衣子ちゃんとは不思議と会話が途切れない。
話し上手で、聞き上手なんだろうな。
もし二人の間に会話が無くなったら、どうなるんだろう。
…